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フレイルと漢方医学[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.25

乾 明夫 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科漢方薬理学講座特任教授)

登録日: 2019-01-02

最終更新日: 2018-12-25

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日本は世界に先駆けた超高齢社会に到達したが、生物寿命と健康寿命の10年内外の差が問題となっている。その中で、予防医学の立場から注目されているのが、骨格筋萎縮(サルコペニア)を基礎としたフレイル(frailty)である。フレイルは漢方薬、とりわけ補剤の良い適応であり、多成分系を特徴とする漢方は、心身両面の異常を示すフレイルの治療にその威力を発揮するものと期待される。人参養栄湯は最強の補剤とも称され、がんの緩和医療などに広く応用されてきた。

この人参養栄湯の研究をしていたことがある。先日、大学院生時代や助手になりたての頃の研究ノートを見る機会があった。四半世紀以上も前のそのノートには、ブタの海馬を使ったレセプターアッセイのデータが残っていた。神経ペプチドY(NPY)、ペプチドYY(PYY)は、故立元博士がカロリンスカ研究所におられた時に見出された脳腸ペプチドである。大学院生の頃、水野信彦先生のご指導の下に、その精製ペプチドを頂戴し、イヌの脳室内に投与して摂食行動の研究を行っていた。その後、NPY/PYY受容体の研究にも着手し、分布や結合特性などの解析を進めていた。

懐かしいそのノートには、高麗人参をはじめとする生薬の研究があった。NPY/PYY受容体アッセイに、10を越える生薬や各種ギンセノシドの影響が検討されていた。NPY/PYY 受容体に直接影響する生薬や有効成分を同定することはできなかったが、生薬の扱いに不慣れであったことや薬学研究者と連携しなかったことが、その敗因のひとつであろう。しかし、この経験が後にツムラのご支援を受け、鹿児島大学で行った六君子湯-グレリン研究に生かされることになった。

四半世紀前の神戸の時代に、カネボウ薬品の課長として神戸大学を担当されていたのが、現クラシエ薬品の中嶋社長である。人の縁とは不思議なものである。
退官間際になって、再度クラシエ薬品のご支援を受け、グレリン-NPYという空腹系を標的に、これまでの研究成果を集約して人参養栄湯研究を進めることとなった。フレイルの予防と治療は時代が求めるテーマであり、漢方医学が花開く領域であろう。

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