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【OPINION】増加する高齢者救急医療への対応─患者ICカードの発行とその意義

No.4739 (2015年02月21日発行) P.15

土肥修司 (市立室蘭総合病院事業管理者、 岐阜大学名誉教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-09

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  • 救急医療における高齢者の数は増加の一途を辿り、医療資源とともに国民医療費を圧迫している。北海道では、高い高齢化率と広域性から問題は一層深刻である。
    医療サービスの向上と介護施設との連携強化を図るため、市立室蘭総合病院(以下当院)では、2010年の暮れから地域医療再生計画補助金事業として「高齢者救急と患者情報─医療連携システム:患者ICカードの運用」を計画した。増加している高齢者救急医療へのニーズ、特に再受診の多い脳神経疾患などの課題を解決するためには、当院という「点」の強化だけではなく、地域(西胆振)全体の医療機関との連携を基に「面」の整備も必須であるという認識であった。それには個人の診療情報を標準化し、地域で共有する必要がある。
    この地域の救急車にICT(Information and Communication Technology)機能を搭載し、患者に医療情報が入力されているカード(以下ICカード)を常時携帯させ、傷病者の医療情報を救急車で迅速かつ正確に把握すると同時に、医療施設の医師・看護師に送信する。搬送先病院の選択と救急対応の準備、そして効率的で効果的な治療を提供するという、地域医療機関で共有できる医療連携実施体制を構築する。高齢者にICカードを発行し、国が2018年を目標に導入を計画している社会保障と税の共通番号(マイナンバー)1)のごく一部を地域の救急医療に特化して試行する事業といえる。

    1. ‌高齢者救急と患者情報─医療連携システム:患者ICカードの運用

    本事業には、患者が保持するICカードと、その情報を迅速に救急車や搬入病院に連絡するシステムが必須である。事業申請直後の東日本大震災の発生によって遅れたが、2013年3月から同意の得られた65歳以上を対象にICカードの発行を開始した2)

    (1)基本医療情報は患者本人が保持

    東日本大震災では大災害に付随する「情報の空白」というべき状況を呈した。東京電力の福島第一原子力発電所の破壊と原子力事故後の長引く処理によって忘れられた感があるものの、地震被災地を覆い尽くした津波によって、犠牲者、行方不明者の捜索、発見された遺体の身元確認の困難さ、腐敗・悪臭など付随する惨事が次から次へと発生した。
    現地に派遣された医師・医療従事者にとっても、犠牲者の個人識別や正確な診断名、既往疾患や服用薬の確認など災害現場での救急医療の活動も困難を極めた。それは特に高齢者で顕著であったという。救急現場の状況は多彩で、しかも患者は脳や心臓の重篤な疾患によって、そのカードを提示すらできないことも多い。したがって、高齢者が絶えず身につけて(ネックレスタイプが最適)いなければならない。
    診療録は、紙にしろ、電子媒体にしろ、病院が保管すべき重要な個別情報である。それをICカード化し、その後の医療連携や医療介護連携の展開に必要最少の情報として供する必要もある。個別の基本診療情報は、高齢者自身も保持すべきである。

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