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発熱した高齢者から検出される多剤耐性菌への対応は?

No.4932 (2018年11月03日発行) P.60

北川雄一 (国立長寿医療研究センター医療安全推進部 感染管理室室長)

登録日: 2018-11-03

最終更新日: 2018-10-30

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高齢者が発熱し,尿培養や喀痰培養で,感受性の乏しい多剤耐性菌が検出されます。これらの菌は種々抗菌薬に抵抗性がありますが,どう対応すべきでしょうか。

(京都府 K)


【回答】

【感染症の起因菌になっているかを考慮した上で,感受性のある抗菌薬で治療すること】

発熱した高齢者から,尿培養や喀痰培養で耐性菌が検出されることは,多剤耐性菌が市中でも増加している現在ではめずらしくなくなっています。具体的な菌がはっきりしませんので,総論的事項に加え,各論的にいくつかの代表的な多剤耐性菌について述べたいと思います。

まず,検出された菌が本当に感染症の起因菌になっているかどうか考慮することです。血液培養以外の培養検査で多剤耐性菌が検出されていても,特に(多剤耐性菌でないものも含めて)複数菌種が検出されている場合や,比較的少数のみが検出されている場合は,定着菌(保菌)である場合があります。肺炎の場合なら,胸部X線像やCT像が想定される菌の肺炎像と矛盾しないか考える必要があるかもしれません。また,発熱が本当に感染症に起因しているかどうかということも考える必要があるでしょう。肺炎や尿路感染に典型的な臨床症状はあるでしょうか。感染症以外が原因の発熱の可能性も否定はできません。

このようなことを考慮した上で,必要な症例には治療を行うことになりますが,エンピリック(経験的)に治療を開始した場合には,感受性検査結果をみて,狭域の抗菌薬に変更する必要があります。高齢者の場合,生理機能が低下している場合があることから,腎機能などを確認した上で投与量を再検討するとともに,漫然と長期間使用することは避けなくてはなりません。また,カルバペネム系薬剤を使用する場合には,抗てんかん薬などとの併用にも注意する必要があります。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は,最もよくみられる多剤耐性菌の1つです。総論的事項で述べた内容を考慮した上で,治療に望む際には,ガイドライン1)を参考にして抗菌薬を選択します。抗MRSA薬の多くは,投与前にシミュレーションを行うことができ,また血中濃度を測定して,適正値領域にあるかを確認(therapeutic drug monitoring:TDM)できますので,高齢者であれば実施したあとで治療を開始することが望ましいでしょう2)

extended spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌は,尿路感染症などで増加している多剤耐性菌です。ESBLを産生する菌種は,主に肺炎桿菌や大腸菌ですが,Serratia属,Enterobacter属,その他,腸内細菌系の菌種でも検出されます。これらのESBL産生菌は腸管内に保菌され,感染症の原因菌となることがあります。ESBL産生菌は通常,セファマイシンやカルバペネム系抗菌薬に感受性を示すため,これらの薬剤により治療する必要があります。

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)は,2014年から5類感染症として全数報告の対象となった感染症で,院内感染の起因菌となる場合があり,注目されています。CREのうちでもカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae:CPE)は,特に有効な抗菌薬が少なく,コリスチンやチゲサイクリンといった比較的特殊な抗菌薬を,ホスホマイシンやアミノグリコシド系抗菌薬などと組み合わせて治療することが多くなっています。この菌が検出された場合は,専門機関に相談するとともに,保菌調査や環境調査などの対策を早急に実施する必要があります。

これらのほかにも,バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin–resistant Enterococci:VRE)や多剤耐性緑膿菌(multiple-drug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP),多剤耐性アシネトバクター(multiple drug-resistant Acinetobacter:MDRA)などの,注意すべき多剤耐性菌がありますので,最新の情報を収集しておく必要があります3)

【文献】

1) 日本感染症学会:MRSA感染症の治療ガイドライン─2017年改訂版.
[http://www.kansensho.or.jp/guidelines/pdf/guideline_mrsa_2017revised-edition.pdf]

2) 日本化学療法学会:抗菌薬TDMガイドライン2016(Executive summary).
[http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/tdm_es.html]

3) 日本感染症学会:多剤耐性菌情報.
[http://www.kansensho.or.jp/mrsa/index.html]

【回答者】

北川雄一 国立長寿医療研究センター医療安全推進部 感染管理室室長

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