株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【医院建築探訪(1)〈木村医院 (栃木・下都賀郡)〉】目指したのは自宅のようにくつろげるクリニック

No.4928 (2018年10月06日発行) P.14

登録日: 2018-10-05

最終更新日: 2018-10-05

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

木を贅沢に使用しただんらん室「里楽」。本を読んだり外を眺めたり、クリニックにいることを忘れて“リラックス”できると評判だ。木村院長の、時が経つのを忘れて自宅のようにくつろいでほしいとの想いが込められている。

医療機関は患者が何らかの不安を抱きながら訪れる場所である。そのため、緊張を和らげ、安心や信頼、清潔といったイメージを患者に与える空間づくりも重要な要素となる。本連載では、理想の医療の実現と患者がくつろいで過ごせる空間づくりの両立を目指し、新築・リフォームしたクリニックの実例を紹介。患者が少しでも前向きに足を運べるような医院建築のあり方について考える。【毎月第1週号に掲載】

ブックカフェのようなだんらん室

日医総研が3年ごとに実施する「日本の医療に関する意識調査」では、患者が「受けた医療」に対し不満を感じる理由の上位に「待ち時間」が毎回上っている。予約制を導入するなど工夫をしている医療機関も増えているが、一定の待ち時間が生じてしまうことはどうしても避けられない。こうした状況を踏まえ、待ち時間を少しでも快適に過ごしてもらうべく、待合室の居心地にこだわったクリニックがある。

栃木県下都賀郡の木村医院は、院長の木村徹さん(写真)が「自宅のような居心地」をコンセプトに、同郡の別の場所でクリニックを経営してきた父の後を継承する形で2015年に開業。最大の特徴は、通常の待合室とは別に設けただんらん室(写真上)にある。「待ち時間をリラックスして過ごしてほしい」との想いから「里楽(りらく)」と名づけられたこのスペースは、天井の一部を板張りにしたり、梁を露出させたりするなど木をふんだんに使うことでぬくもりを感じさせる。

本棚には、看護師の夫人が厳選し、紹介コメントを添えた建築・アート系の書籍、洋書などが並ぶ。また子どもが遊べるブロックや木製玩具に加え、お茶とコーヒーのサーバーが置かれており、上質なファブリックを使用した椅子に腰をかけると、ブックカフェにいるような感覚で時間が流れる。

窓から望むのは、いろは紅葉や山桜など四季折々の変化が楽しめる植栽。窓の上半分は“猫間障子”を用い、視界をパノラマ状に切り取っている。南向きの窓から光を採り込みつつ、近隣の建物や電線、看板など余計なものが目に入らないようにするための工夫だ。

患者とスタッフ双方の利便性を追求

木村医院の設計・施工を手がけたのは、2500棟を超える医院建築の実績を持つハウスメーカーの積水ハウス(https://www.sekisuihouse.co.jp/medical/)。

「医院を建てるに当たっていろいろな先生に相談したところ『地元の工務店に頼むと最終的には自分で設計図を引かなくてはいけない』という声がありました。併設する自宅とともに木の質感を生かして落ち着いた空間にしたいとも考えていたので、それならば豊富なノウハウを持つ専門家に任せようと、父が実家を建てたことで信頼のあった『シャーウッド』ブランドの積水ハウスさんにお願いすることにしました」(木村さん)

シャーウッドは木の質感を生かし、日本古来の木造軸組構法を発展させた積水ハウスの戸建て注文ブランド。耐震性に優れ、間取りの自由度が高い。

設計面での木村医院の特徴は、デザイン性だけでなく、患者とスタッフ双方の利便性を追求した医療機関としての“機能美”を備えているところにある。

医院部分の中央には車椅子が通れる幅を十分に確保した廊下がまっすぐ伸びており、患者は受付・待合・診察・処置・検査・会計などの移動をスムースに行える。また、“抜け感”があるため医療機関特有の息苦しさを感じることがない(写真1)。

廊下とだんらん室は天井を板張りでつなげ、空間の広がりを演出。だんらん室の障子の上下にはガラスを用い、庭からの採光と間接照明で、廊下や受付にいても十分くつろげる効果がある。また障子が廊下を歩く人の顔の高さに配置されているため、誰か診察室から出てきたことは分かるが、顔は見えないというプライバシー面での配慮もなされている。

診察室はメインとサブの2つを配置した(写真2)。受付から診察室、レントゲン室まで一直線につながる裏動線は、動きやすさを重視し、スタッフにも好評。廊下は患者、裏動線は医師・スタッフと、動線の棲み分けができているので人の流れが効率的だ。

設計に当たっては、積水ハウスの専門部署「医療・介護事業推進室」が初期段階から打ち合わせに参加し、担当設計士と連携しながらプランが練られた。木村さんの要望を踏まえ、積水ハウスが提案したレイアウトはほとんどが採用されたという。

住民から「ありがとう」と言われることも

開業から2年以上が経ち、木村医院は一般内科に加え、狭心症や心筋梗塞、不整脈、心不全、肺高血圧症など、循環器疾患の専門的な診療が受けられるかかりつけ医として地域住民から親しまれている。

木村さんの診療スタイルは、最新の知見を踏まえながらも患者や家族とのコミュニケーションを重視し、できるだけ専門用語や難しい言葉を使わず、疾患と治療に関する理解を高めるというもの。そのため診察にはどうしても時間がかかる。こうした丁寧な診療を支えているのが、待ち時間が苦にならない空間を実現した「クリニックらしくないクリニック」だ。

「今では受付してすぐにだんらん室で外を眺めたり、本を読んだりする患者さんが多くなりました。待ち時間をリラックスして過ごしていると、診察室に飲み物を持ち込んでくるなど自宅にいるような感覚で診察を受けることができ、バイタルも平常時のデータが取れます。在宅で診療を受けると外来よりも効果があるというデータが出ていることからも分かるように、患者さんにリラックスした状態で診療を受けてもらうことは大切なのです。しかし全員を在宅で診るわけにもいかないので、“くつろげるクリニック”をどうつくっていくかが重要になると思います」と木村さん。

最近では「こんな居心地の良いクリニックをつくってくれてありがとう」と言われることもあるという。

「こうした声に応えるためにも、かかりつけ医としての診療を含め、少しでも前向きに足を運んでもらえるクリニックにしていきたいと考えています」(木村さん)

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top