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CYP1A2で代謝される医薬品+喫煙(たばこ)[ドクターのための薬物相互作用とマネジメント(9)]

No.4734 (2015年01月17日発行) P.42

澤田康文 ( ‌東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座教授)

玉木啓文 (NPO法人医薬品ライフタイム マネジメントセンター主任研究員)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-15

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  • サマリー
    喫煙は代謝酵素のCYP1A2などを誘導するため,テオフィリン(テオドールなど)やオランザピン(ジプレキサ)などの,CYP1A2により主に代謝される医薬品の体内動態に影響を及ぼすことが知られている。代謝酵素の誘導により,喫煙時にはCYP1A2で代謝される医薬品の血中濃度は低下し,非喫煙時より高い用量が必要になる。その一方,禁煙時にはCYP1A2の誘導が解除され,CYP1A2で代謝されるテオフィリンやクロザピン(クロザリル)の血中濃度が上昇し,副作用が現れやすくなる。禁煙時や喫煙開始/再開時などの喫煙習慣が変化する際には,CY P1A2の代謝能は1週間程度をかけて定常状態に達するため,血中濃度のコントロールが重要となる医薬品では副作用に注意しつつ,投与量を漸減もしくは漸増することが推奨される。

    何が起こる?

    喫煙習慣がある患者では,たばこの煙に含まれる成分により肝臓などに発現しているCYP1A2が誘導されるため,CYP1A2で代謝される薬物の消失速度が上昇し,非喫煙時より高い用量が必要になることがある。また,禁煙によりCYP1A2の誘導が解除されることで,薬物代謝が低下し,血中濃度が上昇して副作用が現れることもある。喫煙習慣の変化により,服用薬物の効果の減弱や副作用が現れた例を以下に示した。

    ❖‌禁煙によりテオフィリンの副作用が現れた海外症例1)

    76歳,女性。2日間,めまいを感じており不調を訴え救急を訪れた。心房細動の既往歴があり,ジゴキシン62.5μgを服用している。COPDに対しては配合吸入剤と,テオフィリン徐放製剤(テオロング等に相当)175mgを1日2回服用していた。患者は40年以上の間,1日100本以上の喫煙をしていたが,入院の2週間前に禁煙をしていた。
    入院時には心房細動がみられたが,心拍数は安定し血圧は正常。起立性低血圧も認められなかった。COPDは継続していたが,血清カリウム値を除きほかの検査結果に問題はみられなかった。観察入院2日目に,致命的なスパスムと手足の痙攣が起こり,24時間のうちに2回,強直性間代性発作が認められた。CTスキャンを行ったが,発作の原因となる変化はみられなかった。その後,さらに2回,強直性間代性発作が認められた。テオフィリンの血中濃度は41.6μg/mLと,治療域上限の2倍程度となっており(基準範囲10~19.9μg/mL),禁煙による血中濃度の上昇が疑われた。喫煙を継続していた入院2カ月前は治療域に収まっていた。
    テオフィリンを速やかに中止し,重症ケアユニ ットにて不整脈,てんかん発作,電解質平衡異常のモニタリングが行われた。テオフィリンの中止により神経症状は劇的に改善し,痙攣や筋攣縮,てんかん発作はみられなくなった。3日以内にテオフィリン濃度は安全な水準まで低下した。

    ❖‌禁煙によりクロザピンの副作用が現れた海外症例2)

    28歳,白人女性。慢性精神性感情障害に対しクロザピン450mg/日の投与で安定していた。10年以上重喫煙者であったが,突然喫煙をやめたところ,数日以内に口渇や筋肉の痙攣,めまい,瞳孔の拡大と反応の低下に伴う目のかすみ,沈静状態や混乱の悪化が認められた。禁煙後のクロザピンと活性代謝物のノルクロザピンの合計の血清中濃度は2.5μg/mLであり,喫煙中に350mg/日を服用していたときの濃度(600ng/mL)の4倍ほどであった。
    クロザピンの投与量を減量後,これらの症状は急速に緩和したため,禁煙によりクロザピンのクリアランスが低下し,血中濃度が上昇したことによる副作用の発現が疑われた。

    ❖‌喫煙によりオランザピンの効果減弱が 疑われた海外症例3)

    30歳,男性,統合失調症患者。10年間以上,1日80本ほどの重度の喫煙をしていた。服薬コンプライアンス(アドヒアランス)が悪く,統合失調症の陽性症状(幻聴,関係妄想)が強くみられ,攻撃的な行動やクロザピン100mg/日の服用下での深刻な起立性低血圧が認められたため入院した。処方薬をオランザピン7.5mg/日に変更したところ,症状は着実に改善した。病棟の規則により,喫煙は1日4本までに制限されていた。
    退院後,喫煙習慣は元に戻り,1日80本程度喫煙するようになったところ,服薬コンプライアンスは問題なかったにもかかわらず,2週間後に再び幻聴,関係妄想,攻撃的な行動などの症状が現れた。患者は再度入院となり,1週間でオランザピンの投与量を15mg/日まで漸増し,定常状態になるまで7日間禁煙とした(オランザピンの血漿中濃度52.1ng/mL)。その後,喫煙量は1週間に4本まで徐々に増えた。
    退院後,服薬コンプライアンスは家族が確認をしており,投与量を15mg/日へ漸増して28日目の喫煙量は1日12本で,統合失調症の症状は限定的であった(血漿中濃度21.2ng/mL)。その後,喫煙量が再び1日80本程度まで増えたところ,症状が再度みられたため,退院後10日目に緊急入院した。2日間再度禁煙し,オランザピンの血漿中濃度は30.9ng/mLとなった。
    本例では,喫煙本数の増加に伴いオランザピンの血漿中濃度が低下し(オランザピンの治療効果がみられる最低濃度23.2ng/mL4)),症状が悪化したと考えられた。

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