
❶ 心アミロイドーシスとは
アミロイドーシス(amyloidosis)とは,折りたたみ異常を起こした前駆蛋白質が,特有のβシート構造に富むアミロイド線維(amyloid fibril)を形成し,全身の様々な臓器に沈着することで臓器の機能障害を起こす疾患の総称である。複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスと,特定の臓器に限局してアミロイドが沈着する限局性アミロイドーシスに分類され,さらに,前駆蛋白とそれに対応する臨床病型にわけられる1)。
アミロイドーシスをきたすアミロイド前駆蛋白は,現在40種類以上が同定されている。その中で免疫グロブリン軽鎖に由来するアミロイド(amyloid light-chain:AL)やトランスサイレチン(transthyretin:TTR)に由来するアミロイドは,心臓に蓄積しやすく,心アミロイドーシスの原因として重要である。なお,TTR型アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)は,さらにTTRの遺伝子変異が原因となる変異型ATTRアミロイドーシス(hereditary/variant ATTR amyloidosis:ATTRv)と遺伝子変異のない野生型ATTRアミロイドーシス(wild-type ATTR amyloidosis:ATTRwt)に分類されている(図1)。

❷ 心アミロイドーシス診療は新時代へ突入!今や心アミロイドーシスは治療すべき疾患である
心アミロイドーシスと言えば,治療法がなく予後不良な疾患の代表として認識されていた。特に,AL心アミロイドーシスは,進行例では生存期間の中央値が半年程度ときわめて予後の厳しい疾患であった2)。筆者が研修医,若手循環器内科医師であった頃(2002~2010年頃)は,心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),βブロッカーなどの薬物治療の有効性が確立され,心不全を薬物治療で治していこうという熱気にあふれている時代であった。しかし,心不全の原因がAL心アミロイドーシスと診断された場合,その後いかなる薬物治療を行っても,心機能や全身状態の改善を得ることができず,多くの症例が短期間で亡くなっていった。このため,筆者たちは,心アミロイドーシス,特にAL心アミロイドーシスは,治療法がなく予後不良な恐ろしい疾患であると指導されていた。
AL心アミロイドーシスに比べ,ATTR心アミロイドーシス(transthyretin amyloid cardiomyopathy:ATTR-CM)は比較的予後が良好とされている。しかし,他の基礎疾患に伴う心不全よりもその予後は不良であり,対症療法のみで数年の延命は可能であるが,徐々に日常生活動作(ADL)が低下し,心不全治療に難渋するようになり,最終的には死に至る。なお,確定診断からの生存期間の中央値は3~5年程度と考えられている3)4)。根本的な治療がない時代,筆者たちは,経年的に状態が悪化していくATTR-CM症例を診察しながら,対症療法しかできない無力さを痛感した。
このように治療法がない時代が長く続いた心アミロイドーシスであるが,近年,その診療状況は劇的に変化している。ALアミロイドーシスに対しては, ボルテゾミブやシクロホスファミド,デキサメタゾンなどの複数の薬剤の組み合わせが標準治療として行われていたが,2021年にこれらの薬剤にヒト型抗CD38モノクローナル抗体であるダラツムマブを加えた併用療法の有効性が報告され5),日本でも使用可能となっている。ダラツムマブを含む化学療法はALアミロイドーシスに対しきわめて有効であり,もはやAL心アミロイドーシスは不治の病ではない。しかし,AL心アミロイドーシスの進行は非常に速いため,治療の遅れがその予後に直結する。このため,AL心アミロイドーシスを疑った場合には,機を逃さず速やかに精査を行い,早期診断・治療介入に結びつけることがきわめて重要である。
筆者たちは,アミロイドーシスに限らず診断に迷う疾患に出会った際,「後日,さらなる精査を行う」や「3カ月後や半年後に再度検査を行う」という判断をすることがしばしばあるが,AL心アミロイドーシス症例に対しこのような対応を取ってしまうと,容易に至適治療時期を逸してしまう可能性があるため,注意が必要である。治療法の進歩によりAL心アミロイドーシスは,プライマリ・ケア医による早期の専門施設への紹介が患者の予後を変える疾患になったと言える。
コラム1 プライマリ・ケアにおいて注意すべき点
近年,心アミロイドーシスの中でも,特にATTR-CMが注目されている。しかし,見落としが予後に直結するため,AL心アミロイドーシスもプライマリ・ケアにおいてきわめて重要な疾患である。このため,ALアミロイドーシスとATTRにおける特徴的な身体所見,検査所見を整理し,理解しておくことがプライマリ・ケアにおいて重要である。
身体所見の特徴は,ALアミロイドーシスとATTRで異なっている。ALアミロイドーシスでは多彩な臨床症候を呈するが,特に巨舌(アミロイドの沈着による舌のびまん性腫大もしくは結節状を呈すること),眼窩周囲の紫斑,吸収不良症候群,下痢,末梢神経障害が有名である。また,検査所見として,0.5g/dayを超える尿蛋白を認めることも特徴的である。ATTRにおいては,手根管症候群に加えて,脊柱管狭窄症も特徴的な身体所見として重要である6)。
プライマリ・ケアでは,AL心アミロイドーシスとATTR-CMのスクリーニングのため,上記身体所見に注意して診察して頂きたい。また,初診時には必ず尿検査を施行し,多量の尿蛋白を認める場合には,AL心アミロイドーシスを疑うことも重要である。


ATTR-CMの原因となるTTRは四量体として安定し,血中に存在しており,このTTR四量体が解離・ミスフォールディング・重合することでアミロイド線維が形成され,心筋に沈着して心機能障害をきたす(図2)。ATTRに対しては,以前より肝移植が根本的治療として行われてきたが,この治療は肝臓から変異型TTRを産生するATTRvに対する治療であり,ATTRwtに対して有効な治療ではない。このため,ATTRwtに対しては,有効な治療法のない時代が長く続いていた。しかし,近年,この状況は大きく変わった。2018年に報告されたATTR-ACT試験では,TTR四量体の安定化薬であるタファミジスがATTRwt-CMを含むATTR-CMの予後を改善させることを明らかにしており7),ATTR-CMは治療法のない疾患から治療することのできる疾患へと変貌を遂げた。その後もATTR-CMに対する治療薬の開発は進み,2025年には第二のTTR四量体安定化薬であるアコラミジスとsiRNA製剤によるTTR産生抑制薬であるブトリシランの予後改善効果も報告され8)9),日本でも使用可能となっている。これらのいわゆる疾患修飾薬は,ATTR-CMの治療に非常に効果的ではあるが,進行したATTR-CMに対しては,十分な予後改善効果が示されていない。このため,ATTR-CMを早期に診断し,疾患修飾薬による治療介入を行うことがきわめて重要である(図3)。



