検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

なぜ,同じ『肺炎』でも病院の収益が数十万円違うのか?─CCPマトリックスを読み解く[研修医・専攻医のためのDPC超入門(4)]

登録日: 2026.08.25 最終更新日: 2026.08.25

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

お気に入りに登録する

「先生,この前の肺炎の患者さんのことなんですが……」

第1回から登場している研修医が,また院長室にやってきた。今日はカルテの画面を印刷した紙を手にしている。

「先生,この前ご指導いただいた,あの80歳代女性の肺炎の患者さん,覚えていますか?」

もちろん覚えている。市中肺炎で入院し,抗菌薬で順調に回復して退院した,あの患者さんだ。

「実は,退院後のカンファレンスで,診療情報管理士さんから指摘を受けたんです。『この患者さん,心不全も併発していて,中心静脈栄養もしていましたよね? でも,カルテの病名欄には肺炎しか書かれていなくて……』って」

研修医は少し気まずそうな顔をした。

「それで,教えてもらったんです。私がカルテに書いた内容と,書かなかった内容で,病院に入るお金(診療報酬)が7万円以上も変わっていたって。1人の患者さんで,です。最初は信じられませんでした」

「ああ,それはCCPマトリックスの話だね」と私は答えた。

「CCP……マトリックス?」

「Comorbidity,Complication and Procedure Matrix─併存症・合併症・処置のマトリックス,と訳される。以前,『市中肺炎と誤嚥性肺炎は別のDPCだ』という話をしただろう(第2回参照)。今日はその先,実は『同じ市中肺炎の中でも,こんなに細かく分類がわかれている』という話をしよう。これを理解すると,君がさっき言った『7万円の差』の正体が見えてくる」

研修医は,印刷した紙を握りしめて,椅子に座り直した。

1 「肺炎」は52種類にわかれている

まず,衝撃的な事実から説明しよう。

DPCの分類で,「肺炎等」(DPC6桁コード:040080)は,令和8年度の点数表上,52もの診断群分類にわかれている。

「52種類……ですか?」と研修医が目を丸くした。

「そう。『肺炎』という,一見シンプルな疾患が,年齢,重症度,副傷病の有無,処置の有無,手術の有無─これらの組み合わせで,52通りに分類されているんだ」

第2回で,DPCコードは14桁で構成されていると説明した。市中肺炎の75歳以上は「04008024」から始まるグループだが,その後ろに続く数字─手術の有無,処置等2の有無,副傷病の有無,そして重症度(A-DROPスコア)─によって,最終的な14桁コードが決まり,それぞれに異なる点数が設定されている。

たとえば,同じ「市中肺炎・75歳以上」でも:
・0400802499x0xx(手術なし・処置等2なし):期間Ⅰ 3458点
・0400802499x1x4(処置等2あり・A-DROP4):期間Ⅰ 3760点
・0400802499x1x5(処置等2あり・A-DROP5):期間Ⅰ 4100点
─このように,点数が変わってくる。

「でも先生,なぜこんなに細かくわける必要があるんでしょうか? 複雑すぎませんか?」

もっともな疑問だ。だが,これには明確な理由がある。医療資源の投入量を,より正確に反映するためだ。

考えてみてほしい。同じ「市中肺炎」でも,軽症で点滴と内服だけで治る患者さんと,重症で集中治療や中心静脈栄養が必要な患者さんとでは,かかる医療資源がまったく違う。それを「市中肺炎」という1つの分類でまとめてしまうと,重症患者を多く診る病院ほど赤字になってしまう。

だからこそ,重症度や処置の有無で細かく分類し,実態に見合った点数を設定している。これがCCPマトリックスの基本思想だ。

2 CCPマトリックスとは何か

では,CCPマトリックスの仕組みを,もう少し詳しく見ていこう。

CCPマトリックスとは,特定の疾患について,複数の要素(併存症・合併症・処置など)を「マトリックス(行列)」のように組み合わせて,診断群分類を決める仕組みのことだ。

令和8年度の点数表では,CCPマトリックスが適用されるのは,主に2つの疾患群だ。

・肺炎等(040080)
・脳梗塞(010060)

いずれも,研修医・専攻医のみなさんが日常的に担当する,ありふれた疾患である。それだけに,この仕組みを理解しておく価値は大きい。

肺炎(040080)のCCPマトリックスでは,主に次の3つの要素が点数を左右する。

要素①:重症度(A-DROPスコア)

A-DROPは,日本呼吸器学会による市中肺炎の重症度分類だ。研修医のみなさんもご存じだろう。

・Age(年齢):男性70歳以上,女性75歳以上
・Dehydration(脱水):BUN 21mg/dL以上または脱水あり
・Respiration(呼吸):SpO2 90%以下(PaO2 60torr以下)
・Orientation(意識):意識障害あり
・Pressure(血圧):収縮期血圧90mmHg以下

これらの該当項目数(0〜5点)で重症度を判定する。DPCの分類でも,このA-DROPスコアが点数を左右する重要な要素になっている。

つまり,入院時にA-DROPスコアをきちんと評価し,カルテに記載することが,適切な分類の第一歩になる。

要素②:副傷病(併存症・合併症)

肺炎の患者さんが,心不全や糖尿病,COPDなどを併せ持っている場合,それは「副傷病」として分類に影響する。

副傷病があるということは,それだけ医学的管理が複雑になり,医療資源も多く必要になる。だからこそ,副傷病の有無は点数に反映される。

要素③:処置等2(中心静脈栄養,人工呼吸など)

「処置等2」とは,DPC分類に影響する特定の処置のことだ。肺炎の場合,たとえば中心静脈栄養や人工呼吸などが該当する。

これらの処置を実施したかどうかで,分類が変わり,点数が変わる。重症患者ほど,こうした処置が必要になるため,点数も高くなる仕組みだ。

これら3つの要素が「マトリックス」のように組み合わさって,最終的な分類が決まる。だからこそ,この3つの要素を,もれなくカルテに記載することが,きわめて重要になる。

ここで,「マトリックス」という言葉について補足しておこう。なぜ「マトリックス(行列)」と呼ばれるのか。

従来のDPC分類は,いわば「1本道の分岐」だった。手術の有無でわかれ,その先で処置の有無でわかれ……と,ツリー状に枝わかれしていく構造だ(図1)。

一方,CCPマトリックスは,複数の要素を縦軸と横軸のように掛け合わせて分類を決める。たとえば「A-DROPスコア(0〜5)」を縦軸,「副傷病・処置の有無」を横軸とすると,その交点で分類が決まる─そんなイメージだ(図1)。だからこそ「マトリックス」と呼ばれる。

この方式の利点は,より患者の実態に即した,きめ細かい分類ができることにある。1本道の分岐では拾いきれない「重症度と処置の組み合わせ」を,マトリックスなら表現できる。その分,複雑にはなるが,それは「医療資源の投入実態を正確に評価したい」という制度の意図の表れなのだ。

「なるほど。複雑なのは,それだけ丁寧に評価しようとしているからなんですね」

「その通り。そして,その丁寧な評価の『入力』になるのが,君のカルテ記載なんだ」

「なるほど……A-DROPスコア,副傷病,処置。この3つを,ちゃんとカルテに残すことが大事なんですね」

「その通り。そして,それを実感してもらうために,君が担当したあの患者さんで,具体的に計算してみよう」


1 2 3