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なぜ,カルテに「肺炎」とだけ書いてはいけないのか?─病名の「解像度」が医療の質を決める[研修医・専攻医のためのDPC超入門(2)]

登録日: 2026.08.11 最終更新日: 2026.08.11

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

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「先生,〇〇さんの退院サマリー,書いてみました」

第1回で登場した,80歳代女性の市中肺炎を担当した研修医が,書きあがった退院サマリーを持って院長室にやってきた。

私はその場で目を通した。経過の記載は要を得ていて,抗菌薬の選択理由も書かれている。よく整理されたサマリーだ。だが,ある一点に目が留まった。

主病名:肺炎 

「研修医くん,ちょっと聞いていい?」と私は言った。「ここの『肺炎』だけど,もう少し詳しく書けないかな?」

研修医は不思議そうな顔をした。「え,あの患者さん,肺炎ですよね?最初は発熱と咳と痰で来院されて,胸部CTで右下葉に浸潤影,CRP上昇,抗菌薬で改善─教科書通りの市中肺炎です。どこか間違ってますか?」

「医学的にはその通り。間違ってない」と私は答えた。「でも,DPCの世界では,ちょっと違うんだ。『肺炎』とだけ書くのと,もう少し詳しく書くのとでは,病院の収入も,医療の質を測る指標も,変わってくるんだよ」

研修医は首をかしげた。

「カルテに書く『肺炎』という2文字。これは,医学的にはほぼ正しい情報だけど,DPCの仕組みの中では,情報量が足りないんだ。今日はその話をしよう」

1 病名は「ラベル」ではなく「分類のキー」

通常,私たち医師が臨床で病名を書くとき,それは「患者の病態を端的に伝えるためのラベル」だ。サマリーに「肺炎」と書けば,他の医療者は「ああ,肺炎の患者さんだったんだな」と理解する。それで臨床的なコミュニケーションとしては成立する。

しかしDPCの世界では,病名にもう1つ別の役割が与えられている。14桁のDPCコードに分類するためのキーとしての役割だ。

DPCコードは14桁の数字とアルファベットで構成されている。最初の6桁が「DPC 6桁コード」と呼ばれる主たる傷病分類。続いて,年齢や重症度の条件,手術の有無,処置の有無,副傷病の有無─これらすべての要素を組み合わせて,ようやく14桁のコードが決まる。

ここでポイントになるのが,「肺炎」という一言だけでは,DPCコードを決められない,ということだ。

たとえば,同じ「肺炎」でも,市中肺炎なのか,院内肺炎なのか,医療・介護関連肺炎(NHCAP)なのかで,ICD-10コードが変わる。さらに,誤嚥が原因の肺炎であれば,DPC 6桁コードそのものが別になる。年齢,重症度(A-DROPスコア),副傷病の有無─これらがそろって初めて,正確なDPCコードが決まる。

カルテに「肺炎」とだけ書かれていたら,診療情報管理士はどうするか。書かれた情報の範囲内で,最も妥当と思われるコードを推測して付けることになる。だが,その推測が実態と違っていれば,医療資源投入の実態がコードに反映されない。病院の収益も,医療の質指標も,ずれてしまう。

カルテ記載の精度が,そのままコーディングの精度になる─これは,DPC時代の臨床医に求められる,新しい責任だ。

2 「市中肺炎」と「誤嚥性肺炎」は別のDPC

ここで,具体的な話に入ろう。

「肺炎」という疾患群の中で,DPCコード上,最も大きくわかれる2つの分類がある

・040080 肺炎等(市中肺炎,院内肺炎を含む)
・040081 誤嚥性肺炎

DPC 6桁コードの5・6桁目を見れば一目瞭然だが,市中肺炎と誤嚥性肺炎は,別のDPC 6桁コードに属している。つまり,医学的には「同じ肺炎」と思えても,DPCの分類上は別の世界の話なのだ。

なぜ別になっているのか。それは,疾患の臨床的な性質が大きく異なるからだ。誤嚥性肺炎は,市中肺炎と比べて以下のような特徴がある。

高齢者・基礎疾患のある患者が多い
入院期間が長くなりやすい
抗菌薬治療だけでなく,嚥下評価・口腔ケア・栄養管理が必要
リハビリ介入が予後を大きく左右する
再発しやすい

こうした臨床実態を反映して,DPCの点数構造そのものが市中肺炎とは異なる設計になっている。

実際の数字を見てみよう。先ほどの「80歳代女性の市中肺炎」のDPC分類と,もしこの患者さんが「誤嚥性肺炎」だった場合のDPC分類を,同じ条件(手術なし・処置等2なし)で並べて比較してみる(表1)。

「この表を見て,何か気がついたことはあるだろうか」

「ええと,1日当たりの点数は,市中肺炎と誤嚥性肺炎でそんなに変わらないんですね」と研修医が言った。「期間Ⅰで138点,期間Ⅱで53点……数%程度の差しかない」

「鋭いね」と私は答えた。「では,もう少しよく見てみよう。日数のほうだ」

研修医が表を見直す。「あ……誤嚥性肺炎のほうが,期間Ⅰも期間Ⅱも,日数が長く設定されている。期間Ⅰは7日と9日,期間Ⅱは13日と17日」

「その通り。これが何を意味するか,わかるかな」

「誤嚥性肺炎は治療が長引くという臨床実態を,DPCの設計が織り込んでいる……ということでしょうか」

「まさにそうなんだ」と私は頷いた。「点数の高低ではなく,入院期間の長さに,誤嚥性肺炎の特性が反映されている。つまり,疾患の実態に合った設計になっているということだ」

「ちなみに,肺炎の場合は,もう一段細かい分岐がある」と私は付け加えた。「重症度(A-DROPスコア)や副傷病の有無で,さらに点数が変わる仕組みだ。CCPマトリックスと呼ばれるんだけれど,これは後で詳しく説明しよう。今は,『同じ肺炎でも,DPC上ではこんなに分類がわかれている』ということを押さえてほしい」


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