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なぜ,同じ『肺炎』でも病院の収益が数十万円違うのか?─CCPマトリックスを読み解く[研修医・専攻医のためのDPC超入門(4)]

登録日: 2026.08.25 最終更新日: 2026.08.25

高田史門 (医療法人純徳会田中病院院長)

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3 同じ患者の「運命の分岐」

では,第1回で登場したあの80歳代女性を例に,具体的なシミュレーションをしてみよう。

彼女の臨床経過を,改めて整理する。

80歳代女性,市中肺炎で入院
入院時,A-DROPスコアは4点(年齢・脱水・呼吸・意識が該当)の重症
心不全を併発していた(副傷病)
経口摂取が困難であったため,中心静脈栄養を実施(処置等2)
14日間入院し,回復して退院

これが「実際の彼女」の姿だ。さて,ここで2つのシナリオを比べてみよう。

シナリオ①:適切に記載した場合

研修医が,彼女の状態を適切にカルテに記載した場合を考える。

市中肺炎(75歳以上)
A-DROPスコア4(重症)
副傷病:心不全
処置等2:中心静脈栄養

この場合,DPCコードは0400802499x1x4に分類される。

・期間Ⅰ(1〜10日目):3760点
・期間Ⅱ(11〜19日目):2334点

14日入院での包括収入は:
3760点×10日+2334点×4日=46936点=46万9360円

シナリオ②:副傷病・処置を記載し忘れた場合

一方,もし研修医が,心不全(副傷病)や中心静脈栄養(処置等2)をカルテに記載し忘れ,「市中肺炎」だけが拾われてしまったら,どうなるか。

市中肺炎(75歳以上)
A-DROPスコア4
副傷病:記載なし
処置等2:記載なし

この場合,DPCコードは0400802499x0xxに分類される。

・期間Ⅰ(1〜7日目):3458点
・期間Ⅱ(8〜13日目):2222点
・期間Ⅲ(14〜60日目):1888点

14日入院での包括収入は:
3458点×7日+2222点×6日+1888点×1日=39426点=39万4260円

その差,7万5100円表1

「7万5100円……同じ患者さんなのに,こんなに違うんですか」

研修医は,手にした紙とこの数字を見比べていた。

「そう。そして,ここが一番大事なところだ。この差は,『水増し』でも『不正』でもない。彼女は実際に心不全を併発し,実際に中心静脈栄養を受けていた。その事実を正確に記載したか,し忘れたか─ただそれだけの差なんだ」

「つまり,シナリオ②は,本来得られるはずだったお金を,記載漏れによって取りこぼしたということ……ですか」

「その通り。しかも,もっと深刻なのは─カルテに心不全や中心静脈栄養が書かれていないと,医療の実態が記録に残らない,ということだ。次にこの患者さんを診る医師が,『この人は前回,心不全を併発して中心静脈栄養が必要だった』という重要な情報を,知ることができない。お金の問題だけじゃないんだ」

4 その差は,病院全体で年間いくらか

さて,ここで視点を「1人の患者さん」から「病院全体」に広げてみよう。

先ほどの差,7万5100円。これは1人の患者さんの話だ。では,これが積み重なったら,どうなるか。

仮に,ある病院が年間100人の市中肺炎(75歳以上,重症)患者を受け入れているとする。そのうち,本来は副傷病や処置の記載があるべき患者さんで,記載漏れが起きていたとしたら─

7万5100円×100人=年間751万円

年間200人なら,1502万円。年間300人なら,2253万円。

「年間で……1500万円? 記載漏れだけで?」

「もちろん,これは『すべての症例で記載漏れがある』という極端な仮定だ。実際にはそこまでではないだろう。でも,たとえ一部の症例でも,記載漏れが積み重なれば,病院の経営に無視できない影響を与えることはわかるはずだ」

第3回で,「漫然とした採血は,病院から少しずつお金を捨てているのと同じ」という話をした。今回はその逆だ。適切な記載をしないことで,本来得られるはずの収入を,少しずつ取りこぼしている。

しかも重要なのは,これは「不正に収入を増やす」話ではないということだ。実態を正確に記載すれば,適切な分類になり,適切な収入が得られる。ただそれだけのことだ。

「正確に書く」ことが,「正しく評価される」ことにつながる。これは,医療の世界に限らず,あらゆる記録の基本だろう。

ここで,誤解のないように強調しておきたい。私は「収入を増やすために細かく書け」と言っているのではない。順序が逆だ。実態を正確に記載すれば,結果として適切な収入になる─そう言っているのだ。

考えてみてほしい。DPC制度は,全国の病院が「実態に即した記載」をすることを前提に設計されている。もし,ある病院が記載漏れを多発させていれば,その病院は「実際よりも軽症の患者ばかり診ている病院」に見えてしまう。すると,その病院が本当に重症患者を診るために投じた医療資源が,データ上は「見えない」ことになる。

これは,病院単体の収入の問題にとどまらない。全国の病院の記載データが集積されて,次の診療報酬改定の基礎資料になるからだ。つまり,1人1人の医師の記載が,巡り巡って日本全体の医療制度の設計に影響を与えている。記載の正確性は,自分の病院だけの問題ではなく,医療制度全体の精度に関わっているのだ。

「自分のカルテ記載が,日本の医療制度につながっている……そう考えると,責任を感じます」

「重く受け止めすぎる必要はないよ。ただ,『正確に書く』という当たり前のことに,それだけの意味があると知っておくのは,悪いことじゃない」


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