感染症診療は,プライマリ・ケアの現場において最も身近でありながら,同時に奥深い専門性を求められる領域のひとつである。医療者は,標準的な知識だけでは答えの出ない問いにしばしば直面する。
jmedmook104『プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A』(日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会監修)では,プライマリ・ケアに携わる医療者が日々の診療で抱く疑問に,感染症専門医が明快に回答している。本書から一部を抜粋し,4回にわけて紹介する。
(第1回,第2回はこちら)
Answer
・クラリスロマイシンとアジスロマイシンを使う理由を理解しておきましょう。
マクロライド系抗菌薬の現状と位置づけ
専門医B マクロライド系抗菌薬(以下,マクロライド)は,販売量別に見ると,実は全抗菌薬の約3割を占めるほどポピュラーな薬剤です(図1)。2016年頃から薬剤耐性(antimicrobial resistance;AMR)対策の影響でその使用量は減りつつありますが,いまだに非常に多く使われています。
しかし,マクロライドはスペクトラムが広いにもかかわらず,その臨床的な役割や位置づけが把握しづらいという側面があります。実際,マクロライドが第一選択薬となる感染症は意外と少ないのが現状です。むしろ,これはβ-ラクタム系抗菌薬が使えない場合の代替薬としての位置づけにあるとされています。
マクロライドが第一選択薬となる主な疾患はレジオネラやマイコプラズマ感染症です。そのほか,非結核性抗酸菌(non-tuberculousis mycobacteria;NTM)症の治療にも使用されます(ただし単剤ではありません)。おそらく,ご質問の背景には呼吸器感染症があるかと思いますが,代替薬として使用が想定されるのは,溶連菌,モラキセラ,ヘモフィルス(インフルエンザ菌),そして一部の炭疽菌などです。
マクロライド使用を難しくする「耐性」の問題
専門医B ここでマクロライドの使用を難しくしているのが,耐性の増加です。現在,肺炎球菌のマクロライド耐性率は約7割にまで増加しており(図2),マイコプラズマでも耐性株が出現しています。このため,耐性がなければ適用となりますが,現状では第一選択薬として使いにくい状況となっています。

マクロライド製剤の比較
専門医B 現在,市場にはエリスロマイシン,クラリスロマイシン(clarithromycin;CAM),アジスロマイシン(azithromycin;AZM),ロキタマイシンなどが上市されているわけですが,エリスロマイシンは下痢の副作用が多いため出番が減っており,ロキタマイシンといった新しい薬も,CAMやAZMを押しのけてあえて使う理由がありません。
ご質問の核心は,このCAMとAZMの使いわけにあるかと思います。まず抗菌活性の違いですが, AZMは,インフルエンザ菌やモラキセラに対する抗菌活性が少し優れているという特徴があります。そのため,あえて使いわけるならば,一般的な市中肺炎にはCAM,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)増悪などには抗菌活性が優れるAZM,という考え方もあります。しかし耐性の問題を考慮すると,どちらも第一選択薬にはなりにくいです。
次に薬物相互作用をみると ,マクロライドは薬物相互作用が多いですが,AZMは相互作用が少ないため,HIV患者など多くの薬剤を内服している場合に使いやすいというメリットがあります。また,半減期と投与回数という点では,AZMは半減期が非常に長いため,1日1回投与ですむのに対し,CAMなどは2回投与が必要です。
最後に,妊娠時の安全性では使用経験が長いエリスロマイシンが優れていますが,AZMも比較的良いとされています。
質疑応答
PC医 β-ラクタム系抗菌薬が使えない(アレルギーなど)場合,気道感染症でマクロライドは使えますか?
専門医B それほどひどくない軽症〜中等症であれば,マクロライドを使用してもかまわないと考えます。ただし,重症度が上がってくる場合は,キノロン系抗菌薬のほうが優先度が高くなります。耐性が増えているため,マクロライドを第一選択薬にはしにくいという判断です。
PC医 マクロライドは線毛機能改善や痰切り目的でも使われますが,これは耐性菌増加の原因にならないでしょうか?
専門医B 私個人としては,抗菌作用とは別に線毛機能改善や痰切り目的でマクロライドが使われることが多い現状が,耐性菌増加の原因のひとつではないかと心配しています。
専門医A 専門医としては,マクロライドには抗菌効果ではない目的で安易に使わないように指導しています。その最大の理由は, NTMのようにCAMがキードラッグとなる感染症があるため,この薬を温存する必要があるからです。
また,マクロライドは細胞内寄生菌にも作用するというスペクトラムの広さを持っていますが,性感染症(sexually transmitted infections;STI)など,本当にマクロライドでなければならない感染症のために温存しておくべき薬だと考えます。
専門医D 私もマクロライドの細胞内寄生菌にも届くというところを大事に使ってあげたほうがよいのではないかと思います。私たちが第一選択として使っているのは,たとえばSTIのクラミジア感染症などに対してです。
参加者 マクロライド系同士の交叉耐性の問題は,臨床で考慮すべきでしょうか?
専門医B マクロライド系同士の交叉耐性については,個々の薬剤を別々に考えるよりも,マクロライドは1つのクラスとして扱うべきだと考えます。AZMを温存するためにCAMを使うといった考え方はしていません。
〔第12回(2021年)日本プライマリ・ケア連合学会学術大会より〕
【参考】
▶ 青木 眞:レジデントのための感染症診療マニュアル. 第4版. 医学書院, 2020.
執筆:山口征啓
(本稿は,日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会監修 jmedmook104『プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A』の一部を抜粋・編集したものです。)