感染症診療は,プライマリ・ケアの現場において最も身近でありながら,同時に奥深い専門性を求められる領域のひとつである。医療者は,標準的な知識だけでは答えの出ない問いにしばしば直面する。
jmedmook104『プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A』(日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会監修)では,プライマリ・ケアに携わる医療者が日々の診療で抱く疑問に,感染症専門医が明快に回答している。本書から一部を抜粋し,4回にわけて紹介する。
Answer
・市中肺炎におけるCTRXとSBT/ABPCの違いは,シンプルに言えば「BLNARをどこまで心配するか」で,地域でのアンチバイオグラムが参考になります。
・また,抗菌薬選択(適正使用)はスペクトラムだけではなく,投与量・投与間隔・投与期間・アドヒアランス・副作用なども重要です。
・重症度に基づいた抗菌薬選択(待てるか?)が,今後ますます重要になりそうです(「R=耐性=無効」という呪縛から逃れることも大切です)。
・CTRXは1日1回投与でよく,腎機能での調整もいらないので,使いやすい薬で〝思考停止”となりやすいです。また高齢者では胆汁うっ滞・胆嚢炎・胆石増大などに注意が必要です。
・SBT/ABPCは嫌気性菌カバーがあり,CDIのリスクが高まります。
専門医A 「市中肺炎の初期治療で, セフトリアキソン(CTRX)とアンピシリン・スルバクタム(SBT/ABPC)が候補だと思いますが,どちらをより優先すべきでしょうか。グラム陰性桿菌(gram-negative rods;GNR)のカバーを考えて,CTRXはできるだけ使わないほうがよいのでしょうか」というご質問です。これは市中肺炎の初期治療において,非常に重要で,かつ現場で迷うポイントですね。
CTRXとSBT/ABPCの使いわけ
専門医A まず結論から申し上げます。市中肺炎において, CTRXとSBT/ABPCのどちらを優先するかという問題は「β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(β-lactamase-nonproducing ampicillin-resistant Haemophilus influenzae;BLNAR)をどこまで心配しますか?」というクエスチョンに集約されると思います。
抗菌薬選択は,安易な広域化を避けるため,“Narrow is beautiful”(スペクトラムは狭いほうが美しい)という考え方が原則になります。しかし,適正使用はスペクトラムだけで決まるわけではありません。
アンチバイオグラムに基づく比較
専門医A どちらの薬剤も市中肺炎の主要な原因菌をカバーしますが,特にインフルエンザ桿菌(H. influenzae)に対する効力に差が出ます。
国内のアンチバイオグラム(地域や病院での感受性データ)をJ-SIPHEで見ると,肺炎球菌はペニシリンG(PCG)に97.8%感受性で非常に良好です。実はメロペネム(MEPM)は78.8%で,MEPMよりもPCGが良いということになっています(表省略)1)。
インフルエンザ桿菌に対する感受性率は,SBT/ABPCが70.3%であるのに対し,CTRXは99.4%と高いです。この差は,主にBLNARになりますので,それをどこまで心配するかということになります。
次にモラキセラですが,こちらは感受性を調べていない病院が多いです。モラキセラは99%がβ-ラクタマーゼを産生しますが,CTRXとSBT/ABPCともに感受性ですので問題ありません。あとはクレブシエラですが,SBT/ABPCは83.5%,CTRXは90.4%ですから,約7%の違いです。一般的にエンピリックセラピー(経験的治療)としては,80%以上の感受性があれば許容されると言われています。
地域の特性と重症度
専門医A BLNARの頻度には地域差がかなりあります。アンチバイオグラムを活用し,自分の地域や施設でインフルエンザ桿菌や大腸菌などのGNRがどの程度いるのか,そしてそれらがSBT/ABPCに対して感受性があるのかを確認することが重要です。
また,重症度が高い場合は,広域のカバーが必要になりますが,軽症の場合はその限りではありません。患者背景だけに基づいて抗菌薬を選択すると,様々な可能性が考えられるため,広域の抗菌薬を選択しがちですが,重症でない(待てる)場合は狭域の抗菌薬を選択するという考え方が今後ますます重要になりそうです。
「R (resistant,耐性) =効かない」は実は嘘のことがあります。臨床的には効くこともあります。感受性検査における「S(susceptible,感受性)/I(intermediate,中間)/R」の判断基準〔ブレイクポイント最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration;MIC)〕は,治療失敗の可能性が懸念されるラインをRとしていますが,Rであっても臨床的に効くことは十分あります。特に重症度は,アンチバイオグラムにはまったく反映されていません。私たちは「R=効かない」という呪縛から逃れるべきです。
スペクトラム以外の考慮事項
専門医A 抗菌薬選択は,スペクトラムの広さだけなく,投与量,投与間隔,投与期間,アドヒアランス,そして副作用も考慮すべきです。CTRXは胆汁中に排泄されるため,高齢者では胆泥を形成し,胆石や胆嚢炎を誘発するリスクがあります。SBT/ABPCはClostridioides difficile感染症(Clostridioides difficile infection;CDI)を引き起こすリスクが高くなります。この点を注意して使うということになります。
結論として,初期治療では地域や施設のアンチバイオグラムを参考にしつつ,重症度に応じた最小限のスペクトラムの薬剤を選択することが求められます。
質疑応答
PC医 CTRXは本当に思考停止になりやすい薬だと思います。アンチバイオグラムを病院で利用している先生はどれくらいいますか。あ,20%くらいいらっしゃいますね。
専門医A クリニックで診療されている場合は,検査会社に依頼すると自施設のアンチバイオグラムを出してくれますので,そちらを活用されるとよいと思います。
PC医 ありがとうございます。
〔第15回(2024年)日本プライマリ・ケア連合学会学術大会より〕
◀文献▶
1) J-SIPHE:J-SIPHE年報2022.(2026年5月15日アクセス)
https://j-siphe.jihs.go.jp/files/J-SIPHE%E5%B9%B4%E5%A0%B12022.pdf
執筆:岸田直樹
(本稿は,日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会監修 jmedmook104『プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A』の一部を抜粋・編集したものです。)