感染症診療は,プライマリ・ケアの現場において最も身近でありながら,同時に奥深い専門性を求められる領域のひとつである。医療者は,標準的な知識だけでは答えの出ない問いにしばしば直面する。
jmedmook104『プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A』(日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会監修)では,プライマリ・ケアに携わる医療者が日々の診療で抱く疑問に,感染症専門医が明快に回答している。本書から一部を抜粋し,4回にわけて紹介する。
(第1回はこちら)
Answer
・腸炎の多くはウイルス性で,抗菌薬を必要としません。
・血便,しぶり腹,長く続く発熱,便中白血球陽性などがあれば細菌性を疑い,抗菌薬を検討します。
・重要なのは「ウイルスか細菌か」を無理に二分することではなく,「治療が必要な細菌性腸炎を見逃さない」視点で重症度・経過・背景を評価することです。
「下痢=抗菌薬」は危険な思い込み
PC医 「発熱で受診する患者さんで下痢や嘔吐を伴う場合,ウイルス性か細菌性かの鑑別と,抗菌薬投与の必要性について,どのように対処すればよいでしょうか」という質問です。これはよく経験される場面かと思います。いかがでしょうか。
専門医C 発熱・下痢・嘔吐の3徴候がそろった腸炎は,基本的には抗菌薬がいらないことが多いです。これはなぜかというと,ほとんどがウイルス性で,仮に細菌性であっても自然軽快することが多いためです。カンピロバクター,サルモネラ,腸炎ビブリオもかなり自然に良くなります1)。細菌性腸炎を疑うサインとして,血便,しぶり腹,長く続く発熱,便中白血球陽性,の4つがあります。
一方で,血便の36%は,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome;HUS)を起こす大腸菌で,抗菌薬の投与が予後を悪くさせる可能性があります2)。この「血便が出るかどうか」は初診の段階ではわかりません。頻回の茶色い水様便で来院した患者さんが,数日後に血便を呈するかどうかというのは予測できないわけです。そのため,急性腸炎への抗菌薬使用は,基本的には不要と考えています。
大腸型(細菌性)と小腸型(ウイルス性)─急性腸炎を病型で考える
専門医C 小腸型,大腸型として整理してみますと,小腸型,つまりウイルス性のほうが下痢・嘔吐が多くて血便がない。グラム染色で便中白血球を見ると陰性。一方,大腸型は細菌性を示唆することが多いです。例外としてカンピロバクター腸炎なんかは小腸型,大腸型の両方の形をとることがありますが,大まかにはどちらかの型として把握できます(表1)。

PC医 小腸型,大腸型。これはすごく大事ですね。あと毒素型もありますよね。私自身もウイルス性腸炎には4回ぐらいかかりました。カンピロバクター腸炎にもなって入院したことがあるんですが,まさにこの通りでしたね。近所の焼き鳥屋に,かなりいろいろ危ない店があったんですよ。腸炎ビブリオは,舞鶴でイカを食べたときに見事にやられましたね。
便中白血球は「異常のサイン」
PC医 この便中白血球は,私は研修医の頃からもう嫌というほど便中白血球を見るよう言われたんですが,皆さんどうですか?便中白血球を見たことのあるような方ってどのくらいおられます?(会場挙手)
専門医C 結構おられますね。1/3ぐらいですかね。
PC医 これ,自分で染色して見る分には問題ないと思うんですが,「便中白血球を見て下さい」って検査室に出しても「え,何ですかそれ」って言われることも多いかもしれません。便中白血球は普通のグラム染色で当然見られますし,他のどんな染色でもいいです。とにかく便に白血球があること自体がおかしいわけだから,これはぜひ見て頂くといいと思いますね。
専門医C そうですね。ぜひやってみて下さい。
PC医 では次のテーマに参りましょう。ありがとうございました。
〔第15回(2024年)日本プライマリ・ケア連合学会学術大会より〕
◀文献▶
1) Zollner-Schwetz I, et al:Clin Microbiol Infect. 2015;21(8):744-9.
2) Talan D, et al:Clin Infect Dis. 2001;32(4):573-80.
【参考】
▶ Shane AL, et al:Clin Infect Dis. 2017;65(12):e45-80.
執筆:来住知美
(本稿は,日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会監修 jmedmook104『プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A』の一部を抜粋・編集したものです。)