
❶ 抗不整脈薬の役割
不整脈治療における抗不整脈薬の役割は,不整脈の頻度を低下させることにとどまらず,臨床転帰を改善することにある。具体的には突然死(不整脈死)の予防,不整脈に伴う症状や生活の質(QOL)の改善である。
強力な薬理作用を有する抗不整脈薬は有力な治療ツールであるが,同時に致命的なリスクをはらんだ「諸刃の剣」でもある。いかにして安全を担保し,治療目的を達成するか。その答えは「敵を知ること」にほかならない。つまり,抗不整脈薬の薬物有害反応の機序とその背景を理解し,適切な対策をとることが重要である。
❷ 抗不整脈薬の分類と作用機序
不整脈は心筋の電気的活動(興奮生成・伝導)の異常によって生じるため,抗不整脈薬は,これら異常な興奮の生成あるいは伝導を抑えることを目的として用いられる。このため,抗不整脈薬の標的は,心筋の電気興奮(活動電位)に寄与するイオンチャネルを介したイオン電流となる。抗不整脈薬の分類には,この代表的なイオン電流であるナトリウム(Na+)電流,カルシウム(Ca2+)電流,そしてカリウム(K+)電流に対する作用に基づくVaughan Williams分類が広く用いられている。
I群はNa+チャネル遮断薬であり,活動電位の立ち上がり(脱分極)を抑制する。この結果,心房あるいは心室からの異所性興奮を抑制し,また心内の興奮伝導速度を低下させる。Ⅲ群はK+チャネル遮断薬であり,活動電位の回復過程(再分極)を遅延させ,活動電位持続時間を延長する。この結果,心筋が伝導してきた興奮を電気的に受け入れない期間(不応期)が延長し,心室頻拍などのリエントリー(電気興奮が旋回する)性不整脈を抑制する。Ⅱ群であるβ遮断薬とⅣ群である非ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル遮断薬は,間接的あるいは直接的にCa2+チャネルを抑制し,電気興奮の発生や房室結節の伝導を抑制する(図1)。このほか,不整脈治療に用いられる薬剤として,ジギタリス,アデノシン,アトロピンなどがある。

❸ エビデンスと適応
抗不整脈薬の薬理作用は多様であり,不整脈の発生機序や患者背景,基礎疾患によって,薬の効果は変わる。また,不整脈の停止・予防,あるいは生命予後の改善など,対象となる不整脈によって治療のゴールは異なり,それに伴って抗不整脈薬の役割も変わってくる。ここでは,これまでの抗不整脈薬に関するエビデンスを不整脈別に整理し,各不整脈にどの抗不整脈薬が適応するのかを解説する。
(1) 心臓突然死の予防
心臓突然死の約2/3は,心室頻拍・心室細動が直接的な原因である。1960年代から1980年代にかけて,抗不整脈薬が症候性心室不整脈の抑制に有効であることが示され,抗不整脈薬の開発においても心室不整脈数の減少がエンドポイントとされていた1)2)。
しかし,心筋梗塞後患者を対象としたCAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)試験により,心室不整脈の数を抑制しても,抗不整脈薬(エンカイニド,フレカイニド)が生命予後の悪化(特に不整脈死や心不全死)をきたすことが明らかになった3)。その後,Ⅲ群薬であるアミオダロンが高リスク患者の突然死(不整脈死)を予防することが示され,その位置づけが確立した。
1990年代後半になると植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator:ICD)の臨床応用が拡大し,アミオダロンとの比較試験の結果,虚血性心疾患や拡張型心筋症による低心機能患者における突然死一次予防として,ICD治療の優位性が示された4)。一方で,ICDは不整脈自体を予防することはできないため,心室頻拍・心室細動の再発予防としての抗不整脈薬のニーズは残っている。
(2) 心室頻拍・心室細動の停止・再発予防
心室頻拍・心室細動に対する急性期治療における薬物治療の役割は,電気ショック抵抗性例への付加治療,ならびに血行動態が安定している心室頻拍の停止および再発予防である。
電気ショック抵抗性の心室頻拍・心室細動に対する抗不整脈薬治療として確立しているのはアミオダロン静注である5)。また,日本ではニフェカラント静注も使用可能であり,リドカイン静注より有用であることが示されている6)。血行動態が安定している心室頻拍には,アミオダロンあるいはニフェカラントあるいはリドカインを静注する5)。さらに,Ⅲ群薬抵抗性の再発性心室頻拍・心室細動に対し,短時間作用型β1遮断薬ランジオロール静注による抑制効果が示されている7)。
(3)心室期外収縮への適応
心室期外収縮は,一般的に頻度の高い不整脈である。特に,器質的心疾患を有さない患者における症候性心室期外収縮やその連発である心室頻拍に対しては,古くからⅠ群抗不整脈薬のエビデンスがある。しかし,これらの多くはカテーテルアブレーションで対処できるため,アブレーションが選択されることが多い。ただ,不整脈の起源によってはアブレーションが容易でない場合もあり,そのような患者には抗不整脈薬が推奨される。
・左室頂部(LV summit)起源で,焼灼により冠動脈損傷リスクがある心室頻拍
・多源性心房頻拍や持続性心房細動の一部
・心筋梗塞や心筋症に伴い,複数の複雑な基質(リエントリー回路)を有する心室頻拍 など
(4) 心房細動の治療
心房細動に対する洞調律維持効果が最も高いのはアミオダロンである8)。ただし,アミオダロンは心外性副作用が多いため,使用するのは虚血性心疾患や心不全を有する器質的心疾患に伴う心房細動に限られる。Ⅰ群抗不整脈薬は心抑制作用があるため,器質的心疾患を有する心房細動には使用できない。器質的心疾患を有さない心房細動に対してエビデンスがあるのはフレカイニドとプロパフェノンである。
心房細動患者を対象とした59の無作為化試験のメタ解析の結果によると,抗不整脈薬は心房細動の再発を減少させる一方で,有害事象を増加させることが示されており,生命予後を含む臨床転帰に有益な効果をもたらすというエビデンスは得られていない9)。
一方,頻脈性心房細動に対する心拍数コントロールには,β遮断薬やジゴキシンが選択される。心機能が保たれていれば非ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル遮断薬も選択される5)。
・器質的心疾患を有さない心房細動には:フレカイニド,プロパフェノン,ピルシカイニド,シベンゾリン,ジソピラミド,ベプリジル
❹ 薬物有害反応の全体像

抗不整脈薬の有害反応を正しく理解することが,より適切な治療につながる。薬物有害反応は,作用機序の観点から大きく2つにわけてとらえることができる。1つはその薬理作用が引き起こす心毒性としての催不整脈,もう1つはそれ以外の有害反応である。
薬物有害反応とは,期待される薬理作用以外の作用(副作用)の中で,人に有害となる作用のことを言う。薬物有害反応には大きくわけてon-target作用によるものとoff-target作用によるものがある。前者は主となる薬理作用に直接関連したものであり,後者は標的以外の分子への作用である。
抗不整脈薬におけるon-target薬物有害反応を理解するには,抗不整脈薬の標的であるイオン電流との関係を押さえる必要がある。on-target薬物有害反応の中でも最も問題となるのが催不整脈である。
催不整脈とは,薬がもともとある不整脈を悪化させたり,新たな不整脈を引き起こしたりすることを指し,薬の心性有害反応のひとつである。特に,不整脈を抑制する目的で使用する抗不整脈薬で催不整脈が起こることは,不利益になるばかりでなく,一部は致死的になることから臨床において重大な問題となる。催不整脈には,心房性と心室性,徐脈性と頻脈性がある。抗不整脈薬の多くは,その薬理作用の上で催不整脈を引き起こすリスクを有している。
❺ 催不整脈の機序とリスク因子
抗不整脈薬使用で最も重要な薬物有害反応は催不整脈である。薬は標的であるイオン電流を抑制することで作用するが,それが催不整脈発生の機序ともなる(on-target作用)。この機序の理解は,予測と回避につながる。また,催不整脈のリスクは,抑制するイオン電流の性質によって特徴がある。ここでは,催不整脈の機序と関連するリスク因子を整理して説明する。
(1) 催不整脈としての徐脈性不整脈
催不整脈としての徐脈性不整脈には,洞房ブロック,洞停止および房室ブロックがある。
不整脈治療薬の中でβ遮断薬,Ca2+チャネル遮断薬,ジゴキシンは,抗不整脈作用として刺激伝導系を抑制することが主作用であるが,過度に作用し,血行動態的に不利益を生じると催不整脈と判断される。一方,Na+チャネル遮断薬は洞結節およびその周囲の心房に対する伝導抑制により,洞房ブロックおよび洞停止をきたす(図2a)。さらに,房室結節に対しても伝導抑制が生じ,房室ブロックをきたすことがある(図2b)。

これらの催不整脈は高用量・高血中濃度の場合のみならず,潜在的に洞結節や房室結節の機能障害を有する患者では,低用量あるいは血中濃度が治療域であっても徐脈性不整脈が出現することがある。

