排尿関連症状は泌尿器科領域で最も頻繁にみられる訴えのひとつであり,患者のQOL(quality of life)に多大な影響を与えるが,実際の臨床現場では一筋縄でいかないことが多い。
Jmedmook102『外来で使える 排尿障害診療のワザ』(松木孝和編著)では,排尿に関わる主要な8つの症状(頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁,排尿時痛,尿排出障害,尿閉,排尿後尿滴下)を取り上げ,各々の病態生理,鑑別診断,治療戦略を,臨床現場での実践的視点を交えながら概説した。本書から一部を抜粋・編集し,4回にわけて紹介する。(第1回はこちら,第2回はこちら)
排尿に関わる主要な症状:排尿時痛(松木孝和)
(1)概要
▶排尿時痛とは,排尿中またはその前後に下腹部や尿道に痛みや灼熱感を伴う症状であり,泌尿器科において頻繁にみられる訴えのひとつである。
▶主に膀胱や尿道の粘膜における炎症・刺激が原因であるが,性感染症,結石,腫瘍,神経因性膀胱など,多様な病因を背景とする。その原因は以下のように分類される。
①感染性疾患:急性膀胱炎,尿道炎(クラミジア,淋菌など),前立腺炎
②非感染性疾患:間質性膀胱炎,放射線性膀胱炎,薬剤性膀胱炎
③機械的刺激:結石,異物,カテーテル留置後など
④腫瘍性病変:膀胱癌,尿道腫瘍
⑤心因性疼痛や慢性骨盤痛症候群など
(2)診断
▶まずは詳細な問診によって,症状の時間経過,部位,随伴症状(頻尿,残尿感,血尿,発熱,外陰部痛など)を把握する。ついで,必要に応じて以下の検査を実施する。
・尿検査(尿沈渣,尿培養):膿尿・血尿の確認,尿路感染症では尿培養
・性感染症検査(クラミジア・淋菌PCRなど):若年者,性感染リスクの高い患者では特に重要
・腹部超音波検査(膀胱,腎臓,前立腺):膀胱腫瘤,膀胱結石症,残尿評価など
・膀胱鏡検査:膀胱腫瘍,膀胱結石,間質性膀胱炎の所見確認
・血液検査(炎症反応,腎機能):全身感染や腎機能障害の確認
▶また,慢性経過をたどる例や難治例では,CTやMRIを用いた詳細な画像評価が必要となることもある。
(3)治療
▶病因に応じた治療が求められる。
①感染性疾患
・細菌性膀胱炎や尿道炎には適切な抗菌薬を投与する
・性感染症の場合は,パートナーの同時治療と感染拡大防止の指導が不可欠
②非感染性・慢性疾患
・間質性膀胱炎には内服薬や膀胱水圧拡張術などを選択
・放射線性膀胱炎には止血,抗炎症薬,膀胱粘膜保護薬などの投与,ただし難治性のため専門医での対応となる
③その他の原因
・結石がある場合は,自然排石を待つか体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy;ESWL)や内視鏡的摘出術を検討
・腫瘍性病変には泌尿器科的精査・腫瘍切除が必要
▶排尿時痛は重要疾患が原因となっていることもあるので,些細な症状の場合でもしっかりと原因を突き止めて対応することが必要である。
以下にケースを挙げる。
慢性前立腺炎のケース(典型例)(砂押研一)
▶45歳男性。約1カ月前から特に坐位で増強する会陰部・陰茎部痛,残尿感を訴えて来院。
(1)本症例の考え方と鑑別診断方法
▶本症例では尿所見は正常であり,しばらくの期間,性交渉もないとのことであった。疼痛のある外陰部の診察でも明らかな異常はなかったが,直腸診では前立腺部の圧痛を認めた。慢性前立腺炎〔米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)カテゴリーⅢ〕と考え,セルニルトン1回2錠1日3回を処方し,さらに長時間の坐位を避け,運動したりゆっくり入浴したりすることなど,生活上の指導を行った。
▶2週間後の再診では症状はかなり改善していたが,まだ少し症状があるとのことで投薬を1カ月追加。その後,症状の消失をもって治癒と判断した。この際,今後も症状が再燃する可能性があることについても説明した。
(2)一般的な対応方法
▶慢性前立腺炎の症状や要因は多岐にわたる。症状としては頻尿,残尿感,下腹部痛,鼠径部痛,会陰部痛,陰嚢部痛,陰茎痛であり,痛みの程度も比較的強いものから違和感程度まで様々である。症状の評価としては,慢性前立腺炎症状スコア(NIH Chronic Prostatitis Symptom Index;NIH-CPSI)を適宜活用するとより客観的な評価が行える(NIH-CPSIについては成書を参考にされたい)。
▶まずは尿沈渣検査で炎症所見や血尿の有無を確認する。また,性的接触の有無も確認する必要がある。精神的な要素が関与することも多く,うつ病の治療歴などについても確認する。患者の年齢や希望も考慮し,前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)のチェックや直腸診,膀胱残尿測定,さらにCT,腹部超音波検査など画像検査も適宜追加する。
▶治療としては運動,入浴など生活指導,投薬としてセルニルトン,漢方薬(八味地黄丸や竜胆瀉肝湯など),α1受容体遮断薬,抗菌薬,消炎鎮痛薬が挙げられる。症状改善が得られず長期化するケースや,改善後も再発を繰り返すこともあり,長く付き合っていく必要があることを説明しておく。
▶また,初診患者の場合には,以前もこのようなことがなかったか,治療歴がないかどうかも聞いたほうがよい。実際に「しばらく薬をもらっていたことがあります」と言われることも多く,またそのとき,どのような薬剤が有効だったのかも参考になることがある。
(3)考え方のまとめ
・問診,尿沈査検査で基本的評価を行う。
・患者の年齢や希望に留意しながら,直腸診,PSA採血,膀胱残尿測定,CT,腹部超音波検査など画像診断を適宜追加する。
・年齢を問わず,長期的に繰り返す症例が多いことに留意する。
コラム:慢性前立腺炎に対するセルニルトンの効果
セルニルトンは既に50年以上も前から慢性前立腺炎,初期の前立腺肥大症に対して効果が認められ,使われている薬剤である。有効率はおおよそ60〜70%とされているが,時折胃部不快感などの消化器症状を訴える症例がある以外,特に副作用も多くない薬剤で使いやすい。筆者は慢性前立腺炎(NIHカテゴリーⅢ)と診断したケースでは,まずセルニルトンが効く症例なのかどうか,1〜2週間試すことが多い。効果がない場合,次のステップを考慮することになる。
(本稿は,松木孝和編著 Jmedmook102『外来で使える 排尿障害診療のワザ』の一部を抜粋・編集したものです。)