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前立腺肥大症に伴う尿意切迫感に使えるワザは⋯⋯?

登録日: 2026.07.09 最終更新日: 2026.07.10

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排尿関連症状は泌尿器科領域で最も頻繁にみられる訴えのひとつであり,患者のQOL(quality of life)に多大な影響を与えるが,実際の臨床現場では一筋縄でいかないことが多い。
Jmedmook102『外来で使える 排尿障害診療のワザ』(松木孝和編著)では,排尿に関わる主要な8つの症状(頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁,排尿時痛,尿排出障害,尿閉,排尿後尿滴下)を取り上げ,各々の病態生理,鑑別診断,治療戦略を,臨床現場での実践的視点を交えながら概説した。本書から一部を抜粋・編集し,4回にわけて紹介する。(第1回はこちら

排尿に関わる主要な症状:尿意切迫感(松木孝和)

(1)概要

▶尿意切迫感とは,突然抑えがたい強い尿意が生じ,排尿を我慢するのが困難となる症状である。正常な蓄尿機能では,徐々に尿意が高まり適切なタイミングで排尿が行われるが,切迫感がある患者では排尿の制御が困難となる。

▶本症状は過活動膀胱(overactive bladder;OAB)の中心的症状であり,OABの診断基準の一部でもある。OABは,尿意切迫感を主症状とし,通常は頻尿や夜間頻尿を伴い,切迫性尿失禁(urgency urinary incontinence;UUI)の有無で2型に分類される(OAB-wet/OAB-dry)。

▶また,尿意切迫感は神経因性膀胱(脳血管障害,Parkinson病,多発性硬化症など)や器質的膀胱疾患(膀胱炎,膀胱腫瘍,間質性膀胱炎,膀胱結石症など)でもみられることがある。

(2)診断

▶診断は問診による症状の確認に加え,以下の検査を通じて原因疾患の特定と重症度の把握を行う。必要に応じて専門医で行うものもある。

・排尿日誌:頻尿,夜間頻尿,尿失禁との関連を確認
・尿沈査検査:膿尿,血尿などの有無を確認
・尿培養(膿尿がある場合):感染の有無を評価
・腹部超音波検査:前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia;BPH)の有無,膀胱容量,残尿量,膀胱腫瘤の有無などを確認
・膀胱鏡検査:炎症,腫瘍,異物などを確認
・膀胱内圧測定(ウロダイナミクス):排尿筋過活動の評価,膀胱コンプライアンスの測定
・神経学的評価:脳・脊髄の障害が疑われる場合は,頭部MRIや脊髄MRIを検討

(3)治療

▶尿意切迫感の治療では,まず器質的疾患や感染を除外する。BPHやOABと診断された場合は以下のアプローチが基本となる。

①    薬物療法

・BPHではα1受容体遮断薬等の投与を行う
・OABの患者では抗コリン薬やβ3受容体作動薬を投与する

②    行動療法

・排尿間隔訓練:トイレに行く間隔を徐々に延長することで,膀胱容量と自制力を高める
・骨盤底筋訓練:骨盤底筋群を強化し,切迫感による漏れを予防
・バイオフィードバック療法

③    難治例に対する介入療法

・ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法:排尿筋過活動を抑制,6〜9カ月ごとに反復注入が必要
・仙骨神経刺激療法:電気刺激により排尿筋活動を制御

④    その他

・高齢者では認知機能やADLを含めた包括的評価が必要であり,抗コリン薬による認知機能への影響もふまえた薬剤選択が求められる


以下に典型例となるケースを挙げる。

前立腺肥大症による排尿障害があるケース(鶴 信雄)

▶75歳男性。頻尿と尿意切迫感を主訴に来院した。国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score;IPSS)は22点,過活動膀胱症状スコア(Overactive Bladder Symptom Score;OABSS)は8点(我慢が難しい:2点),腹部超音波検査で前立腺体積は約58cm3,尿沈渣検査所見は正常,前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA) 3.85ng/mLで正常範囲。尿流量測定で最大尿流量率は4.8mL/秒,排尿量は158mL,排尿時間52秒,残尿量196mLであった。

(1)本症例の考え方と鑑別診断方法

▶IPSSによる症状と前立腺体積,尿流量検査から,前立腺肥大症の重症度分類ではすべてで重症に分類される。OABSSも8点のため,中等症の過活動膀胱でもある。

▶前立腺肥大症による排尿障害と,過活動膀胱症状の両方がみられる場合,過活動膀胱治療薬を先行して使用すると,排尿症状の増悪,残尿量の増加,さらには尿閉になる危険性が高いため,過活動膀胱治療薬単独での使用は勧められない。

(2)一般的な対応方法

▶頻尿や尿意切迫感という主訴で,尿勢の低下や残尿を自覚していない場合でも,腹部超音波検査で前立腺体積と排尿状態を確認すべきである。

▶非泌尿器科医においても腹部超音波検査は可能である施設が多いので,前立腺の大きさと排尿後の膀胱残尿測定を行うことが望ましい。また,尿流量測定は難しいが,排尿時間の測定(22秒以下が正常)で代替可能である。

▶本ケースの場合,前立腺肥大症による排尿障害の治療を優先すべきと考え,α1受容体遮断薬の投与を開始したところ,治療開始4週間後に最大尿流量率は7.5mL/秒,残尿量は95mLと改善した。

▶ただし,頻尿と尿意切迫感の改善が少なかったため,β3受容体作動薬の併用を開始した。その後,残尿量はわずかに増加したが尿勢の低下もなく,尿意切迫感が著明に改善したため,残尿量に注意しながら両者の併用を継続中である。

▶前立腺肥大症治療薬と過活動膀胱治療薬の併用を行っても,尿意切迫感にまったく変化がない場合には,泌尿器科専門医に紹介とする。

(3)考え方のまとめ

・尿意切迫感を訴えて受診した患者に対しては,まず腹部超音波検査で前立腺の大きさと排尿後の残尿量を確認する。
・前立腺肥大症を認めた場合,α1受容体遮断薬の投与から治療を開始し,頻尿や尿意切迫感の改善が不十分であれば,残尿量に注意しながら過活動膀胱治療薬を併用する。
・両者の併用でも改善を認めなければ,泌尿器科専門医に紹介する。

ここで身につく!外来で使えるワザ

1. 腹部超音波検査で前立腺体積を測定するには,前立腺3方向の長さを測定する必要がある(体積=a×b×c×1/2)が,矢状断での長さ測定は難しいことがある。その場合,横断面の2方向にどちらか一方の長さを加えて計算〔a×b×(a or b)×1/2〕しても近似できる報告があるので,慣れていない方にはお勧めである。

2. OABSSで質問3の尿意切迫感スコアが2点以上かつ合計スコアが3点以上で過活動膀胱と診断するが,質問3が2点以上であれば合計スコアは3点以上になることが多いので,質問3だけを見て診断していいと言っても過言ではない。

3. 文中でも述べたが,50歳以下の男性で排尿時間の平均は22秒という研究結果があり,実際に患者自身にスマートフォンのストップウォッチで計ってもらうだけで排尿時間の延長=排尿障害の存在を調べることができる。

(本稿は,松木孝和編著 Jmedmook102『外来で使える 排尿障害診療のワザ』の一部を抜粋・編集したものです。)


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