検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

FOCUS:非専門医のための間質性肺炎実践的アプローチ

登録日: 2026.07.03 最終更新日: 2026.07.03

川畑隆史 (飯塚病院呼吸器内科)

お気に入りに登録する

飯塚病院呼吸器内科
川畑隆史
2018年長崎大学医学部医学科卒業。飯塚病院にて,初期研修・後期研修を行う。後期研修中に神奈川県立循環器呼吸器病センター,済生会熊本病院呼吸器内科にて勤務。後期研修修了後,2024年より飯塚病院呼吸器内科医長代理として勤務。
飯塚病院副院長/呼吸器内科部長/呼吸器病センター長
飛野和則
2001年熊本大学医学部卒業。熊本大学医学部附属病院第二内科,順天堂大学医学部附属順天堂医院などで勤務。順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学にて医学博士を取得後,大阪大学医学部附属病院放射線統合医学講座特別研究生などを経て,2013年より飯塚病院に勤務し,現職に至る。
私が伝えたいこと
◉間質性肺疾患(ILD)の診療は進歩しており,原因精査の重要性は増している。
◉早期精査と早期治療介入が重要であり,疑わしい症例を早期に拾い上げることが鍵となる。
◉長引く咳嗽や呼吸困難を認める場合は,背部下肺野の聴診と胸部画像検査を検討する。
◉ILDを疑った場合は適切なタイミングで専門医へ紹介する。特に急性増悪(AE)では迅速な対応が重要である。
◉治療ではステロイドや免疫抑制薬だけでなく,抗線維化薬も重要である。
◉終末期の緩和ケアも重要であり,診療連携が必要である。

❶ はじめに:治らない病気からのパラダイムシフト

「健康診断の胸部X線で,下肺野に淡い網状影があると言われた」「長引く空咳で受診したが,咳止めや気管支拡張薬が効かない」日常診療で,このような訴えを持つ高齢患者に遭遇する機会は年々増えている。間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)は,膠原病関連間質性肺疾患(connective tissue disease-associated interstitial lung disease:CTD-ILD),過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonitis:HP),薬剤性肺障害,職業性肺疾患,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)など,多様な病態を含む疾患群である。

なお,ILDは肺の間質を主座とする病変を広く含む総称であり,間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)はその中でも肺胞壁の炎症や線維化を主体とする病態群を指す。すなわち,ILDが大きな箱であり,間質性肺炎はその中の主要な一群である。ただし,日常診療において両者が近い意味で用いられることも少なくない。そこで本稿では,まずILD全体を俯瞰し,その上で臨床上遭遇しやすく,非専門医が見逃してはならない間質性肺炎を中心に解説する。

わが国の全国データベース解析では,ILD全体の有病率は2015年の656/10万人から2023年には1301/10万人へと上昇したと報告されており1,その臨床的重要性は確実に高まっている。IIPsは,原因を特定できない間質性肺炎の一群であり,難病情報センターによると,有病率は10万人当たり約100人とされている。IIPsの中で最も頻度が高く,かつ最も予後不良な病型が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。日本呼吸器学会の解説では,IPFはIIPsの70〜80%を占めるとされている。IPFの国内頻度については,北海道における全例調査で年間発症率は10万人当たり2.23人,有病率は10万人当たり10.0人と報告されており2,全国レセプトデータを用いた解析では有病率は10万人当たり27人と推定されている3。抗線維化薬の登場により,IPFでは肺機能低下速度の抑制が示され4,ニンテダニブは2020年に進行性線維化を伴う間質性肺疾患(progressive pulmonary fibrosis:PPF)にも適応が拡大された。

現在は,呼吸器内科医,放射線診断医,病理医による集学的検討(multidisciplinary discussion:MDD)を前提に,診断と治療方針を組み立てることが標準である。したがって,非専門医に求められる役割は,詳細な病型分類ではない。疑わしい症例を早期に拾い上げ,適切なタイミングで専門医へとつなぐことである。

❷ 間質性肺炎の全体像を摑む

「肺炎」という名称のために,患者だけでなく医療従事者においても誤解されやすい疾患である。まずは,病変の「場所」と病態の「振る舞い」を整理する。

(1)「肺胞性肺炎」と「間質性肺炎」の決定的違い

肺胞をブドウの房にたとえると,日常診療で遭遇する肺胞性肺炎(細菌性肺炎)は,ブドウの実の中(肺胞腔)に膿や浸出液が貯留する病態である(1)。抗菌薬により原因菌が制御されれば,中身は吸収され,肺はもとの状態に近づく。一方,間質性肺炎は,ブドウの皮(肺胞壁=間質)そのものに炎症が起こり,壁が厚く硬くなる病態である。壁が厚くなると酸素が血液へ移行しにくくなり(拡散障害),最終的には肺全体が硬く縮む(拘束性障害)。

ここで重要なのは,線維化した肺はもとの状態には戻らないという点である。したがって,間質性肺炎の治療目標は元通りに治すことではない。「これ以上,硬くならないように進行を抑える」ことである。これが,早期発見が重要となる最大の理由である。

間質性肺炎の治療目標▶
線維化した肺の進行を抑える

(2) 非専門医が最初に区別すべき視点

教科書を開くと,IIPs,IPF,NSIP,COP,DIP……とアルファベットの羅列に圧倒される。しかし,非専門医が最初に区別すべきなのは,①原因が明らかなもの(二次性・原因あり),②原因が特定できないもの(IIPs)の2点である(25

診療では,まず「原因の有無」を徹底して探る。膠原病〔関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc),皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)など〕,過敏性(カビ,羽毛,鳥などの吸入抗原),薬剤性〔漢方薬,抗がん剤,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)など〕,塵肺などが原因として含まれる。これらの「原因あり」の間質性肺炎や炎症主体の間質性肺炎では,原因除去に加え,ステロイドや免疫抑制薬が奏効することが多く,比較的予後が良好な傾向にある5

(3) 予後不良疾患のIPFとステロイドの功罪

原因が特定できないIIPsの中で,最も頻度が高く,かつ最も予後不良なのがIPFである。IPFは慢性かつ進行性に肺が線維化し,胸部CTでは蜂巣肺(honeycombing)を呈する。診断後の生存期間中央値は3〜5年と報告されており4,一部の進行がんと同等か,それより悪い(32。非専門医に強調したいピットフォールは,「間質性肺炎だから,とりあえずステロイド」という判断の危険性である。PANTHER-IPF試験では,プレドニゾロン,アザチオプリン,N-acetylcysteineの3剤併用により,有害事象,入院,死亡が増加した6。したがって,「間質性肺炎だからまずステロイド」という発想は,少なくともIPFが鑑別に残る段階では危険である。

呼吸器内科専門医がCTD-ILDやHPの除外診断を行うのは,「ステロイドが効く病態か,あるいは有害となりうる病態か」を見きわめるためでもある。「咳が続くから」といった理由で漫然とステロイドや鎮咳薬を処方している間に,IPFへの治療介入の好機を逃す可能性がある。

関連コンテンツ Patient Journeyを軸に考える特発性肺線維症:宮本 篤著,B5判,16頁。特発性肺線維症を中心とした間質性肺疾患について,「Patient Journey(病を患う生活者の新たな日々)」を軸に,疾患概念の整理から診断,治療,予後,終末期に至るまでを一連の流れとして解説。

❸ 見逃さない診断のきっかけ

ILDの早期発見において最も重要な役割を担うのは,かかりつけ医をはじめとする非専門医である。2 5に示すように,ILDのトリアージはかかりつけ医が担う。しかし初期のILDは,「風邪症状」や「加齢による息切れ」と見誤られやすい。限られた診療時間でILDを拾い上げるための問診・身体所見・スクリーニング検査の勘所を解説する。

この記事はこちらから購入できます

→プレミアム会員はこちらから全文読めます


1