

❶ はじめに:治らない病気からのパラダイムシフト
「健康診断の胸部X線で,下肺野に淡い網状影があると言われた」「長引く空咳で受診したが,咳止めや気管支拡張薬が効かない」─日常診療で,このような訴えを持つ高齢患者に遭遇する機会は年々増えている。間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)は,膠原病関連間質性肺疾患(connective tissue disease-associated interstitial lung disease:CTD-ILD),過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonitis:HP),薬剤性肺障害,職業性肺疾患,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)など,多様な病態を含む疾患群である。

なお,ILDは肺の間質を主座とする病変を広く含む総称であり,間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)はその中でも肺胞壁の炎症や線維化を主体とする病態群を指す。すなわち,ILDが大きな箱であり,間質性肺炎はその中の主要な一群である。ただし,日常診療において両者が近い意味で用いられることも少なくない。そこで本稿では,まずILD全体を俯瞰し,その上で臨床上遭遇しやすく,非専門医が見逃してはならない間質性肺炎を中心に解説する。
わが国の全国データベース解析では,ILD全体の有病率は2015年の656/10万人から2023年には1301/10万人へと上昇したと報告されており1),その臨床的重要性は確実に高まっている。IIPsは,原因を特定できない間質性肺炎の一群であり,難病情報センターによると,有病率は10万人当たり約100人とされている。IIPsの中で最も頻度が高く,かつ最も予後不良な病型が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。日本呼吸器学会の解説では,IPFはIIPsの70〜80%を占めるとされている。IPFの国内頻度については,北海道における全例調査で年間発症率は10万人当たり2.23人,有病率は10万人当たり10.0人と報告されており2),全国レセプトデータを用いた解析では有病率は10万人当たり27人と推定されている3)。抗線維化薬の登場により,IPFでは肺機能低下速度の抑制が示され4),ニンテダニブは2020年に進行性線維化を伴う間質性肺疾患(progressive pulmonary fibrosis:PPF)にも適応が拡大された。
現在は,呼吸器内科医,放射線診断医,病理医による集学的検討(multidisciplinary discussion:MDD)を前提に,診断と治療方針を組み立てることが標準である。したがって,非専門医に求められる役割は,詳細な病型分類ではない。疑わしい症例を早期に拾い上げ,適切なタイミングで専門医へとつなぐことである。

❷ 間質性肺炎の全体像を摑む
「肺炎」という名称のために,患者だけでなく医療従事者においても誤解されやすい疾患である。まずは,病変の「場所」と病態の「振る舞い」を整理する。
(1)「肺胞性肺炎」と「間質性肺炎」の決定的違い
肺胞をブドウの房にたとえると,日常診療で遭遇する肺胞性肺炎(細菌性肺炎)は,ブドウの実の中(肺胞腔)に膿や浸出液が貯留する病態である(図1)。抗菌薬により原因菌が制御されれば,中身は吸収され,肺はもとの状態に近づく。一方,間質性肺炎は,ブドウの皮(肺胞壁=間質)そのものに炎症が起こり,壁が厚く硬くなる病態である。壁が厚くなると酸素が血液へ移行しにくくなり(拡散障害),最終的には肺全体が硬く縮む(拘束性障害)。
ここで重要なのは,線維化した肺はもとの状態には戻らないという点である。したがって,間質性肺炎の治療目標は元通りに治すことではない。「これ以上,硬くならないように進行を抑える」ことである。これが,早期発見が重要となる最大の理由である。

(2) 非専門医が最初に区別すべき視点
教科書を開くと,IIPs,IPF,NSIP,COP,DIP……とアルファベットの羅列に圧倒される。しかし,非専門医が最初に区別すべきなのは,①原因が明らかなもの(二次性・原因あり),②原因が特定できないもの(IIPs)の2点である(図2)5)。

診療では,まず「原因の有無」を徹底して探る。膠原病〔関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc),皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)など〕,過敏性(カビ,羽毛,鳥などの吸入抗原),薬剤性〔漢方薬,抗がん剤,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)など〕,塵肺などが原因として含まれる。これらの「原因あり」の間質性肺炎や炎症主体の間質性肺炎では,原因除去に加え,ステロイドや免疫抑制薬が奏効することが多く,比較的予後が良好な傾向にある5)。
(3) 予後不良疾患のIPFとステロイドの功罪
原因が特定できないIIPsの中で,最も頻度が高く,かつ最も予後不良なのがIPFである。IPFは慢性かつ進行性に肺が線維化し,胸部CTでは蜂巣肺(honeycombing)を呈する。診断後の生存期間中央値は3〜5年と報告されており4),一部の進行がんと同等か,それより悪い(図3)2)。非専門医に強調したいピットフォールは,「間質性肺炎だから,とりあえずステロイド」という判断の危険性である。PANTHER-IPF試験では,プレドニゾロン,アザチオプリン,N-acetylcysteineの3剤併用により,有害事象,入院,死亡が増加した6)。したがって,「間質性肺炎だからまずステロイド」という発想は,少なくともIPFが鑑別に残る段階では危険である。

呼吸器内科専門医がCTD-ILDやHPの除外診断を行うのは,「ステロイドが効く病態か,あるいは有害となりうる病態か」を見きわめるためでもある。「咳が続くから」といった理由で漫然とステロイドや鎮咳薬を処方している間に,IPFへの治療介入の好機を逃す可能性がある。

❸ 見逃さない診断のきっかけ
ILDの早期発見において最も重要な役割を担うのは,かかりつけ医をはじめとする非専門医である。図2 5)に示すように,ILDのトリアージはかかりつけ医が担う。しかし初期のILDは,「風邪症状」や「加齢による息切れ」と見誤られやすい。限られた診療時間でILDを拾い上げるための問診・身体所見・スクリーニング検査の勘所を解説する。


