
❶ はじめに
糖尿病患者の増加に伴い,糖尿病足病変に遭遇する機会も年々増加しています。一度潰瘍や壊疽に至ると治療に長期間を要し,感染の重症化や下肢切断といった重大な転帰をとることも少なくありません。大腿骨部の大切断に至った場合,1年後の死亡率は50%とも言われ,予後が悪いことがわかります。
足病変は,QOLを著しく低下させるだけでなく,再発や入院を繰り返すことによる医療経済的負担も大きく,さらに患者のみならず,患者の家族への精神的な負担も大きいことが知られています。近年の報告では,糖尿病患者の約15%が生涯のうちに足潰瘍を経験し,その多くは糖尿病性神経障害や末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)を背景として発症することが示されています1)。我々皮膚科医にとって,重症化した症例を振り返ると,「もっと早い段階で異常に気づけたのではないか」と感じることが少なくありません。足病変の発症や進行を防ぐためには,初期段階での発見や介入が何より重要であり,日常診療で患者を継続的に診ておられる内科の先生方の役割はきわめて大きいと考えています。
初期段階では,「しびれ」や「なんとなく感覚が鈍い」といったごく軽微な自覚症状しかないことが多く,具体的には,皮膚の乾燥や軽度の胼胝,爪のわずかな変形,靴擦れの治りにくさといった,些細な変化にすぎません。しかし,この時期に適切な評価を行い,専門的な医療につなげることができれば,足潰瘍への進展を防止,あるいは遅延させることが可能となり,その結果,患者のQOL低下を防ぐことができます。
「足に傷ができてから」あるいは「潰瘍が治りにくくなってから」の紹介では,治療の難易度は著しく高まり,治癒までの時間や患者の負担も大きくなります。
本稿では,糖尿病足病変の初期病変に焦点を当て,日常診療の中でどのようにそのサインを見抜き,どのようなタイミングで専門医に紹介すべきかを,具体的に解説していきます。さらに,早期紹介による予後改善の実例や足の診察手技,リスク評価のポイント,そして多職種連携の重要性についても説明します。本稿ではこれらの内容を,内科の先生方が明日から実践できる実用的な視点で提示したいと思います。
患者さんは,長年の糖尿病罹患により神経障害を有しており,足壊疽を生じていたにもかかわらず痛みはありませんでした。痛みのない傷を放置したため感染を起こし,大きな潰瘍を形成し,出血して初めて気づいたのです。
たとえその時点でのHbA1cがコントロールされていても,糖尿病による足病変は生じうることを念頭に置いておく必要があります。
❷ なぜ糖尿病患者では足病変が生じやすく,気をつけないといけないのでしょうか?
なぜ糖尿病患者では足病変が生じやすく,気をつけないといけないか。それは,糖尿病患者の足は,「痛みを感じない足」「変形した足」「傷が生じやすい足」であることが多いからです。その原因は以下の通りです。
(1) 糖尿病足病変の概念と発症メカニズムについて
糖尿病足病変は,糖尿病に伴う末梢神経障害,PAD,感染などが複合的に関与して生じる,下肢の組織障害の総称です。主な病態は,潰瘍,壊疽,感染であり,一度発症すると治癒に長期間を要し,しばしば下肢切断に至ることもあります。網膜症や腎症と並ぶ慢性合併症のひとつですが,歩行機能やQOLを直接損なう点で,臨床的意義がきわめて大きい合併症と言えます。
糖尿病足病変の発症には,3つの病態(①神経障害,②PAD,③感染)が中心的な役割を果たします(図1)。これらが互いに悪循環を形成し,軽微な外傷や靴擦れを契機に潰瘍や壊疽へと進行します。以下に3つの病態について解説します。

(1)糖尿病性神経障害
高血糖状態が長期間続くことにより,神経軸索やシュワン細胞が障害され,感覚・運動・自律神経のいずれにも異常をきたします。
•感覚神経障害 → 知覚鈍麻により疼痛を感受する閾値が上昇(図2)

•運動神経障害 → 足内筋,足周囲の筋肉萎縮による足趾の変形,アーチの崩壊(図3,4)


•自律神経障害 → 発汗低下,皮膚乾燥による亀裂形成(図5)

このように感覚・運動・自律神経のすべてに異常をきたした結果,足底圧の局所的上昇や胼胝,鶏眼,微小外傷を生み出し,自覚が乏しいうちにびらん・潰瘍・感染へと進行します(図6)。

神経障害は,糖尿病の比較的早い時期(罹患後5~10年)から発症しはじめるため,糖尿病の診断確定後の早期から,神経障害によって起こる上記のような軽微な症状に注意する必要があります。

(2)末梢動脈疾患(PAD)
糖尿病では動脈硬化が早期に末梢優位で進行するため,膝下から足背動脈の狭窄・閉塞が高頻度でみられます(図7)。その結果,酸素供給低下→創傷治癒遅延→壊死リスクが増大し,さらに虚血は感染抵抗力も低下させます。虚血と神経障害の併存は,重症化の最大のリスクです(図8)。



(3)感染
糖尿病患者は,高血糖による好中球機能低下や微小循環障害により感染が起こりやすく,進行も速いのが特徴です。亀裂や潰瘍から細菌が侵入し,蜂窩織炎 → 膿瘍 → 骨髄炎 → 壊疽と進展することがあります。感染は足病変を急速に悪化させる重要な因子であり,「数日の遅れ」が切断につながることもあります(図9〜11)。



また,高齢糖尿病患者の増加に伴い,視力障害や関節変形などのためセルフケアが難しい症例が増えており,早期発見と専門医連携の重要性がいっそう高まっています。
したがって,かかりつけの内科医による問診や定期的な視診・触診,足背動脈触知やモノフィラメント検査など,日常の評価が欠かせません。神経障害や虚血の徴候を早期にとらえ,フットケア教育や靴の指導,血糖・血圧・脂質管理を並行して行うことが,重症化を防ぐ最も確実な手段です。糖尿病足病変は「足の病気」ではなく,「全身の代謝・循環異常が足に現れた病態」であり,足を診ることは糖尿病を全身的に診ることと同義なのです。

