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FOCUS:ポストコロナ時代の肺炎診療再考 〈ウイルス性肺炎と二次性肺炎のマネジメント〉

登録日: 2025.10.10 最終更新日: 2025.10.10

番場祐基 (新潟大学医歯学総合病院高次救命災害治療センター/新潟大学大学院医歯学総合研究科呼吸器・感染症内科)

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新潟大学医歯学総合病院高次救命災害治療センター/新潟大学大学院医歯学総合研究科呼吸器・感染症内科

番場祐基

2013年新潟大学医学部医学科卒業。新潟県立中央病院で初期臨床研修。新潟県厚生連佐渡総合病院内科,鶴岡市立荘内病院呼吸器科などを経て,2021年から現職。感染症を主な専門としながら,幅広く診療・研究を行っている。「救急・集中治療領域で内科医としてできることは?」と日々考えながら奮闘中。ブログ・note「内科医のジレンマ」を運営し,FacebookやXで医師向けの情報発信を積極的に行っている。

私が伝えたいこと

◉市中肺炎の原因として呼吸器ウイルスは稀ではない:呼吸器ウイルスは成人市中肺炎の約2割に関与する。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)だけでなく,RSウイルス(RSV),ヒトメタニューモウイルス(hMPV)など,その他のウイルスも時に重症肺炎やアウトブレイクを起こしうる。

◉流行様式の激変と迅速検査のインパクト:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降,ウイルス流行の季節性が崩れ通年監視が必要になった。多項目PCRによる病原体同定が診断・隔離・抗菌薬使用の判断を根底から変えた。

◉ウイルス別の治療戦略と二次感染対策:インフルエンザ・COVID-19では状況に応じて適切な抗ウイルス薬の選択が必要である。黄色ブドウ球菌などによる二次性細菌性肺炎や,真菌感染の合併も起こりうるため,これまでの知見をもとにした適切な診断戦略が重要である。

◉呼吸管理は“適応・タイミング”が生命線:非侵襲的呼吸補助管理デバイスとの使いわけは重要だが,自発呼吸誘発性肺傷害を回避するため気管挿管をためらわない。挿管後は肺保護戦略と腹臥位療法,必要なら体外式膜型人工肺(ECMO)を含む段階的アプローチを行う。

◉子どもから大人まで生涯にわたるワクチン戦略:早期診断,治療だけでは呼吸器ウイルス感染症による死亡を減らすことはできない。インフルエンザ・SARS-CoV-2・RSVワクチンなど,子どもから大人まで必要な人に適切なタイミングで適切なワクチンを届けられるように,ワクチン戦略を見直していくことが重要である。

❶ はじめに

呼吸器ウイルスによる肺炎は,①呼吸器から直接侵入する一次感染型〔インフルエンザウイルス,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)など〕と,②細胞性免疫が低下した宿主での再活性化・内因性感染型〔サイトメガロウイルス(CMV)など〕に大別される(1)。

呼吸器ウイルス感染症は「風邪=急性上気道炎」の代表格である一方,重症肺炎やパンデミックを引き起こしうるという二面性を持つ。インフルエンザは日本だけでも年間推定1000万人が罹患し,しばしば肺炎を合併する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,わずか数年で世界累計死亡者数700万人超を記録した。また,RSウイルス(RSV)やヒトメタニューモウイルス(hMPV)は時に高齢者施設などで肺炎の集団感染を引き起こす。これらの事実は,呼吸器ウイルスの社会的インパクトの大きさを物語っている。

呼吸器ウイルス感染症の大半はかぜ症候群であるが……
風邪を風邪と言いきるのは案外難しい。基本的には自然軽快して初めて「風邪だった」と後づけで診断することしかできない。免疫不全がなくても,高齢ではなくても稀に重症化してしまうことが呼吸器ウイルス感染症の厄介なところである。

かつてウイルス性肺炎は小児領域の話題と考えられてきたが,マルチプレックスPCRを代表とする高感度核酸増幅検査の普及により,成人市中肺炎でも稀ではなく検出されることがわかってきた。

また,ウイルス性肺炎はしばしば重症化する。①ウイルスそのものによる急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の発症,②損傷粘膜を足場とした二次性細菌性肺炎の合併,の2つのパターンがある。特に高齢者,免疫抑制状態,慢性心肺疾患はハイリスク群であり,診断遅延が予後を悪化させる。

こうした呼吸器ウイルスによる社会的インパクトを軽減する鍵は,迅速診断と予防戦略である。PCR・LAMPを中心とする高感度検査は,抗菌薬適正使用を促し,耐性菌抑制にも寄与する可能性がある。予防ではインフルエンザワクチンが重症化と死亡を低減することが報告されている。また,RSVワクチンは小児用だけでなく,成人用も上市されている。

呼吸器ウイルスによる肺炎は以下の要因により,臨床上の重要性を増していると考えられる。

1)ウイルス性肺炎のリスクとなる患者集団が増加している

2)ウイルスがより一般的な肺炎の原因であることがわかってきた

3)高感度・特異度かつ迅速な診断方法が一般化された

4)治療や予防の手段が確立されてきた

本稿では,成人におけるウイルス性肺炎と二次性肺炎を,実例とともに解説する。紹介するすべてのケースは筆者の経験症例をもとに再構成したものである。

❷ 肺炎を起こす呼吸器ウイルスとその流行状況

ウイルス性肺炎は一般的に小児と高齢者に多い。ウイルス性肺炎の発生率は5~6歳から青年期にかけて急減し,加齢とともに,特に免疫抑制が関与することで増加する。

肺炎の原因となる呼吸器ウイルスの代表例は1の通りである。また,本邦において市中肺炎の原因としては一般的ではないため,本稿では解説していないが,水痘・帯状疱疹ウイルスや麻疹ウイルスも時に市中肺炎を引き起こし,重症化することは留意しておくべきである12

ウイルス流行の季節性は,COVID-19以後に大きく様変わりした。2020年にほとんどのウイルスの流行が一時的に抑制されたが,RSVは2021年より,hMPVは2022年7月,インフルエンザウイルスは2023年以降に流行が再開した3。また,以前のような季節性流行だけでなく,年間を通じて散発的に流行が続いている状況である。これらの動向から地域の感染症週報などで「いま流行しているウイルス」を確認し,検査や隔離策を柔軟に選択することが求められる。

麻疹の流行
ワクチン接種率の低下を背景に,2025年に入り米国で麻疹の流行が続いている。感染症の制御には,技術の進歩だけではなく,教育や行政の関与がどれだけ重要かを再認識させられる59)
感染症流行の予測
どの感染症がいつ流行するのかを予測することは,非常に困難になった。平時からのサーベイランスが重要である。

❸ 市中肺炎におけるウイルス性肺炎の再評価(COVID-19以降)

市中肺炎におけるウイルス性肺炎の疫学像は,分子診断技術の普及とCOVID-19後の感染動態の再編で一変した。コロナ前の市中肺炎におけるウイルスの検出頻度は,研究により差があるものの2〜3割程度であった4)~6。いずれの研究でも検出ウイルスはライノウイルスが最多であった。一方で,本邦の調査では市中肺炎の16.4%でウイルスが検出されたが,冬季中心の調査であったことや検出方法の影響か,そのほとんどがインフルエンザウイルスであった7。COVID-19パンデミック前には,実臨床で肺炎の原因として同定可能な病原体は,成人ではほぼインフルエンザウイルスのみ(小児ではRSVやhMPVの検索が可能)であったため,実際にはウイルスの関与を過小評価していた可能性がある。

一方,COVID-19パンデミック後はやはり市中肺炎の原因として,SARS-CoV-2が増加した。市中肺炎研究を目的に情報を収集しているドイツのネットワークであるCAPNETZの調査では,2020年から2023年に発生した市中肺炎のうち,26.2%で呼吸器ウイルスを認め,最多がSARS-CoV-2(15.1%)であったと報告されている8。ただし,2022/2023年シーズンではSARS-CoV-2以外のウイルスも増加しており,多様なウイルスが市中肺炎の発症に寄与している可能性が示唆されている。

本邦では2019年にFilmArray呼吸器パネルが保険収載され,その後SARS-CoV-2を検出できるように改良されたことから,多くの施設で導入された(2)。抗原検査では診断困難だったウイルスも多数含まれており,研究ではなく実臨床ベースで肺炎の原因としてのウイルス同定が可能となった。

以上のように,COVID-19パンデミック(とそれに対する感染対策の結果)による呼吸器ウイルスの流行の変化と,マルチプレックスPCRを代表とする核酸増幅検査が多くの施設で施行可能となったことから,ウイルス性肺炎が「再発見」された。今後,市中肺炎における呼吸器ウイルスの疫学と重要度が大きく変化していくことが予想される。

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