坂口志文氏(阪大免疫学フロンティア研究センター特任教授)のノーベル生理学・医学賞受賞決定を記念し、日本医事新報2015年5月30日号に掲載された「人・坂口志文さん」を再録する。ガードナー国際賞受賞直後に取材したこの記事で、坂口氏はノーベル賞受賞の可能性について「もう少し臨床につながらないと難しいでしょう。私の次の世代くらいにはこの分野で受賞してほしい」と謙虚に語っている。
坂口志文さん
ガードナー国際賞受賞、大阪大学特別教授
1951年滋賀県生まれ。76年京大卒。米ジョンズホプキンス大、スタンフォード大などを経て、99年京大再生医科学研究所教授、所長を歴任。2011年阪大免疫学フロンティア研究センター教授、13年から現職
「がんの3割を免疫で治すことは可能だと思います」
今年3月、ノーベル賞の前哨戦とも評される「ガードナー国際賞」を受賞した。受賞理由は「制御性T細胞の発見と免疫における役割の解明、ならびに自己免疫疾患と癌の治療への応用」。「制御性T細胞(Treg)」とは獲得免疫の主役となるリンパ球(T細胞)の一種で、免疫の自己寛容を維持する役割を果たす。坂口さんは1995年にTregを判別するマーカーを同定。2003年には自己免疫疾患やアレルギー、炎症性腸疾患のすべてが現れるIPEX症候群の原因遺伝子のFoxp3が、Tregのマスター遺伝子であることを示した。
Tregのコントロールはがん治療でもその効果が期待されている。「がん免疫療法」は、がん抗原自体を体内へ投与することでがん抗原に反応する免疫細胞を患者の体内で活性化させるが、「免疫を抑制するTregも強くなってしまうため、そのままではあまり効果がありません」と語る。「がんの場合は一定期間Tregを減らし、その間にがんワクチンを打ってどれだけ免疫反応を高められるかがカギ。今年からこの臨床研究を始める予定です。すべてとはいわないけれど、がんの3割くらいを免疫で治すことは、可能ではないかと思っています」と意気込む。
この研究を始めたのは20代半ば。その間欧米の学会では免疫を抑えるリンパ球の「存在自体がなかったことのようにされた」時期もあったが、実験で得た「正常な個体が発症しないのはそれを抑える何かがあるはず」という手応えを信じ研究を続けた。現在では免疫制御の新たなターゲットとして、Tregの応用に向けた研究が世界的に盛んになっている。
「今回の受賞は、長い間地道にやってきたので国際的な賞をそろそろあげてもいいんちゃうか、ということでは」と謙遜するが、Tregとともに免疫分野の3大テーマとされたToll様受容体と樹状細胞は既にノーベル賞を受賞した。自身の受賞の可能性については「もう少し臨床につながらないと難しいでしょう。私の次の世代くらいにはこの分野で受賞してほしい」と語るが、果たしてさらなるビッグプライズの朗報は届くか─。
2004年には免疫学分野で優れた業績に対して授与されるWilliam B. Coley Awardを受賞(右から3人目)