スウェーデンのカロリンスカ研究所は10月6日、2025年のノーベル生理学・医学賞を阪大免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授に授与すると発表した。授賞の理由は、自己に対する異常な免疫反応を抑える免疫自己寛容などに必須な「制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)」の発見。米国のメアリー・E・ブランコウ氏、フレッド・ラムズデル氏との同時受賞となった。
「非常に驚きであり光栄」と喜びを語る坂口氏
坂口氏は、1979年に制御性T細胞に関する研究を開始。1995年に特異的分子マーカーによる制御性T細胞の同定に成功し、制御性T細胞の存在とその免疫学的重要性を世界で初めて証明した。
さらに2003年には制御性T細胞特異的転写因子Foxp3を発見。坂口氏の研究成果は、自己免疫病の治療・予防、がん免疫療法、移植臓器に対する免疫寛容誘導など医療への応用が期待されている。
■坂口氏、がん免疫療法の研究継続に意欲
坂口氏は6日夜、阪大で記者会見に臨み、「私たちの研究が臨床の場で役に立つ方向にもう少し発展してくると何らかのご褒美があるかもしれないと思っていたが、この時点でこのような名誉を頂くのは非常に驚きであり光栄に思っている」と受賞の喜びを語った。
制御性T細胞発見の意義については「免疫反応は、いかに免疫反応を強くするか、その反対にいかに異常な免疫反応を抑えるか、この2つが重要。私が取り組んできたのは、いかに免疫反応を負に制御するかという研究。制御性T細胞を標的にしてそれを減らせば(がん細胞に対する)免疫反応が上がり、がん免疫療法にも使える」と説明。
「臨床の場で応用できる方向にこの分野の研究が進展していくことを望んでいる。もう少し私たちも寄与したい」と述べ、安全で効果があり医療経済的にも可能ながん免疫療法などの研究にさらに取り組む考えを示した。
■「がんが怖い病気ではない時代に必ずなる」
会見の途中に石破茂首相や阿部俊子文科相から電話が入り、「(理想的ながん免疫療法を受けられる)夢のような時代は何年くらいで来るか」との首相の質問に対し「20年くらいの間にはそこまで行けるのではないか。サイエンスは進んでいくので、そのうちにがんは全然怖い病気ではなく治せるものだという時代に必ずなると思っている」と答えた。
阿部文科相には「日本の基礎科学に対する支援がだんだん不足しているように感じる。同じGDPであるドイツと比べても免疫分野の研究資金の規模は3分の1」と述べ、基礎研究に対する支援の強化を求めた。
会見に同席した阪大の熊ノ郷淳総長は「本学在籍中の研究者の(ノーベル賞)受賞は今回が初めて。大変嬉しく思っている」と述べ、長年にわたる坂口氏の取り組みをたたえた。ノーベル賞の授賞式は12月10日にストックホルムで行われる。
坂口志文(さかぐち しもん) 阪大免疫学フロンティア研究センター特任教授
1951年滋賀県生まれ。76年京大医学部卒。米ジョンズホプキンス大卒後研究員、スタンフォード大客員研究員などを経て、99年京大再生医科学研究所教授。2007年同研究所所長。2011年阪大免疫学フロンティア研究センター教授。2025年より現職。