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FOCUS:ワクチンキャッチアップ接種スケジュールの考え方

登録日: 2025.10.03 最終更新日: 2025.10.03

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科准教授)

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聖マリアンナ医科大学小児科准教授

勝田友博

2001年聖マリアンナ医科大学卒業。2014年聖マリアンナ医科大学講師,2016年フィラデルフィアこども病院予防接種教育センターvisiting scientist,2021年聖マリアンナ医科大学准教授,2023年米国CDC immunization safety office visiting scientist,2024年聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科部長,2025年より現職。日本小児科学会専門医・指導医,日本感染症学会専門医・指導医,日本小児感染症学会専門医・指導医。

私が伝えたいこと

◉キャッチアップ接種は,VPDs対策として必要不可欠である。

◉適切なキャッチアップ接種を行うためには,より専門的な知識を要する医療従事者による継続的な助言が必要である。

◉NIPに沿って推奨されたワクチンを完遂した場合であっても,キャッチアップ接種が必要となることがある。

◉国内においては,ワクチンごとに様々な理由で接種率が低下し,キャッチアップ接種を必要とする集団が存在している。

◉高額な費用負担がキャッチアップ接種のハードルとなることが多いため,国によるキャッチアップ接種制度や地方自治体などによる助成内容を的確に把握し,適応となる患者に推奨する。

❶ キャッチアップ接種とは

ワクチンを接種する一番の目的は,ワクチンで予防可能な疾患(vaccine-preventable diseases:VPDs)から自分自身を守ることである。また,ある集団内でVPDsに対する免疫を持つ人の割合を上昇させることにより,年齢や基礎疾患など,様々な理由で自分自身では接種ができない人をVPDsから守る「herd immunity」を国や地域全体で獲得することも重要な目的の1つである。これらの目的を達成するためには,各国が定めたnational immunization program(NIP)に沿って推奨されたワクチンを完遂することが重要であるが,実際は様々な理由により,計画通り接種をすることが困難となることも多い。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,キャッチアップ接種を,「何らかの理由で,国の予防接種スケジュールに基づく対象ワクチンの接種を受けていない,あるいは接種回数が不足している人に対して,その接種を実施すること」と定義しており1,キャッチアップ接種は,VPDs対策として必要不可欠となっている。国内資料では,NIPは「定期接種」と訳されることが多いが,国内においては定期接種のほかに,臨時接種,任意接種など複数の分類が存在しており,定期接種や臨時接種は厳格に接種適応期間が定義されている。一方で,キャッチアップ接種はむしろ任意接種に該当することも多い。そこで本稿ではNIPを定期接種に限定せず,臨時接種や任意接種等を含む「国の予防接種プログラム」と位置づけた。

一般的に,キャッチアップ接種は,普段と異なる特殊なスケジュールで行う必要があるため,医療従事者による被接種者への丁寧な助言が不可欠である。さらに,キャッチアップ接種に関する複雑なルールは,医療従事者ですら正確に判断することが困難であることが多い。

本稿では,様々な背景に基づくキャッチアップ接種に関して解説する。

❷ NIPに基づいて推奨されている標準的なワクチン接種スケジュール

近年は,多くのワクチンがNIPに基づく標準的なワクチン接種スケジュールに含まれるようになっているが,一部のワクチンが未接種となっていることは決してめずらしいことではない。様々な理由により未接種となっているワクチンを漏れなく抽出し,子どもの保護者や被接種者に対してキャッチアップ接種を適切に推奨するための第一歩として,医療従事者はNIPにより推奨されている「標準的な」ワクチン接種スケジュールを正確に理解しておく必要がある。

(1)国内における「標準的な」ワクチン接種スケジュール

国内において,定期接種に関しては,「定期接種実施要領」により接種方法が厳格に定められているが2,詳細に記載されているため,短時間での読解が困難であることが多い。そこで,複数のアカデミアから,定期接種実施要領に,キャッチアップ接種スケジュールに含まれることが多い任意接種ワクチンに関する記載を加え,よりわかりやすく図表化した推奨スケジュール資料が公開されている。

(1)日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

日本小児科学会は,小児を接種対象とした標準的な予防接種スケジュールを公開している3。小児期に接種が推奨されているワクチンが定期接種と任意接種に色わけされており,乳児期については月齢単位で詳細に記載されている。国内においては近年,標準接種スケジュールが頻回に変更されているが,その都度,迅速に改訂されている。後述する,「日本小児科学会が推奨する予防接種キャッチアップスケジュール」4と同じ,日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会により作成されているため,両者の記載は連動しており,参考にしやすい。一方で,成人に対する記載は乏しい。

(2)国立健康危機管理研究機構(JIHS)が推奨する予防接種スケジュール

国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security:JIHS)は,小児だけではなく成人も接種対象として含めた標準的な予防接種スケジュールを公開している5。JIHSによる資料は,定期接種のみに特化したものと,定期接種と任意接種を併記したものがある。後者に関しては,20歳未満と20歳以上に分類した資料もある。

(2)国外における「標準的な」ワクチン接種スケジュール

被接種者が海外渡航などを目的としたキャッチアップ接種を希望して来院した場合は,まず渡航先における地域流行疾患や,それに基づく現地で推奨されている「標準的な」ワクチン接種スケジュールを確認する必要がある。しかし,医療従事者であっても世界中の「標準的な」ワクチン接種スケジュールをすべて把握することは困難である。厚生労働省検疫所FORTH(For Travelers’ Health)6のサイトでは,各国における「標準的な」ワクチン接種スケジュールがすべて記載されているわけではないが,渡航予定地域における流行疾患の詳細や,邦人が現地を訪れる際にキャッチアップ接種を検討すべきワクチンが簡潔に記載されている。

❸ 正確な接種歴の把握に基づくキャッチアップ接種が必要なワクチンの抽出

(1) 情報源

キャッチアップ接種の必要性の判断および実際の接種計画策定のためには,個々の予防接種歴の正確な把握が不可欠である。国内においては,様々な情報が電子化されている今日においても,予防接種歴は依然としてアナログデータに依存することが多い。

たとえば,小児においては保護者によって母子手帳を用いた接種歴管理がなされており,非常に有用かつ信頼性も高い。一方で,アナログ情報である母子手帳は,紛失,持参忘れ,記載ミスなどが生じがちである。成人においては,紛失,実家での保管などの様々な理由から,小児以上に母子手帳による小児期における接種歴確認が困難となる。成人以降に接種したワクチンに関しては母子手帳に記載されず,医療機関から発行された接種証明書も紛失されていることが多い。地方自治体や接種医療機関による個人の予防接種歴は5年経過後に消去・廃棄されている可能性も高く,どの医療機関で接種をしたかを失念してしまっていることも多い。

現在,国内で計画されているマイナンバーを用いた母子手帳の電子化や予防接種歴一括管理は,個人情報管理などの課題はあるものの,正確な予防接種歴の把握という点では有用かもしれない。

(2)キャッチアップ接種が必要なワクチンの抽出

前述の通り,被接種者が居住・訪問を予定している国や地域のNIPに基づいて推奨されている標準的なワクチン接種スケジュールと,被接種者のこれまでの正確な予防接種歴情報を連動させて,キャッチアップ接種が必要なワクチンを見落とすことなく抽出する能力が,医療従事者には求められる。

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