GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)に対するCVイベント抑制作用が、複数のランダム化比較試験(RCT)で示されている。一方、GLP-1RAより後に登場したGIP/GLP-1デュアルRAは、GLP-1RAよりも強力な「減量作用」や「代謝改善作用」が示唆されている。ではこれら両剤のCVイベント抑制作用を、CV高リスク肥満2型DM例で比較したらどうなるか―。
9月15日からウィーン(オーストリア)で開催された欧州糖尿病学会(EASD)第61回学術集会では、この両剤を直接比較したRCT"SURPASS-CVOT"が報告された。発表者はStephen Nicholls氏(モナッシュ大学、豪州)ら。「体重」などの「代替評価項目」が改善されても、必ずしも真の臨床イベント抑制にはつながらないようだ。
【対象】
SURPASS-CVOT試験の対象は、「冠動脈疾患・脳血管障害・末梢動脈疾患」の少なくとも1つを有し、かつ「BMI≧25kg/m2」だった2型DM 1万3165例である。日本を含む世界30カ国から登録された。
平均年齢は64歳、女性の割合は29%だった。平均体重は93kg、BMI平均値は「33kg/m2」だった。HbA1c平均値は8.4%である。
治療薬は、スタチンを86%が、レニン・アンジオテンシン系阻害薬は80%が服用していた。血糖降下薬は82%がメトホルミン、31%がSGLT2阻害薬を服用していた。
【方法】
これら1万3165例は、GIP/GLP-1デュアルRA「チルゼパチド」群(2.5→15mg/週)とGLP-1RA「デュラグルチド」群(1.5mg/週[+偽増量])にランダム化され、二重盲検法で4年間(中央値)観察された。
なおデュラグルチド「1.5mg/週」というのは、RCT"REWIND"にて、すでにCVイベント抑制作用が証明されている用量である。
【結果】
・1次評価項目
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」発生リスクに、両群間で有意差はなかった(チルゼパチド群の対デュラグルチド群ハザード比[HR]は0.92、95%CI:0.83~1.01。発生率はチルゼパチド群:3.19%/年、デュラグルチド群:3.47%/年)。イベント総数は1663。試験デザイン時の想定数は「1615」だったので、検出力は十分である。
これら1次評価項目を個別に比較すると、いずれのリスクもチルゼパチド群で低下傾向を認めたが、有意差には至らなかった。ただしチルゼパチドの、デュラグルチドに対する「非劣性」は確認された(P=0.003)。
留意すべきは、「体重」「HbA1c」に限れば、チルゼパチド群で有意に改善されていた点だろう。すなわち試験開始後36カ月の時点で、体重は「7.1kg」、HbA1cは「0.8%」、いずれもチルゼパチド群で有意低値となっていた(両群間の差は試験開始24週間後の時点ですでに著明:David D’Alessio氏[後述]報告より)。にもかかわらず、1次評価項目に有意差はない。「体重」と「HbA1c」は、少なくともGLP-1関連薬を用いた検討においては、臨床イベント「代替評価項目」としての信頼性に、疑問符がついたのではないだろうか。
・2次評価項目
一方、2次評価項目の1つ「総死亡」は、チルゼパチド群で有意に抑制されていた(HR:0.84、95%CI:0.75~0.94。治療必要数[NNT]は63)。Nicholls氏によれば、減少が著明だったのは「非CV疾患死亡」、特に「感染症死亡」だったという。
この点は興味深い。というのも実臨床データを用いたRCT模倣比較でも、チルゼパチドはGLP-1RAに比べ「総死亡」、特に「感染症死亡」を減らすという報告があるためだ(2025年6月米国糖尿病学会[ADA]報告)。感染症は、わが国のDM例において2番目に多い死因であり、17%が感染症で死亡しているとの報告もある[中村ほか. 2024]。「総死亡」を1次評価項目に組み込んだRCTが待たれる。
SURPASS-CVOT試験は、Eli Lilly and Companyから資金提供を受けて実施された。また結果概要は同社から本年7月31日、プレスリリースの形で公表された。しかし論文はまだ発表されていない。
なお、学会質疑応答で論文発表時期を問われた、試験デザイン論文最終著者であるDavid D’Alessio氏(デューク大学、米国)の答えは、「そのうち(Soon)」というものだった(場内には笑い)。