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異所性妊娠

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-07-25
石本人士 (東海大学医学部専門診療学系産婦人科教授)
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  • ■疾患メモ

    異所性妊娠とは,妊卵(受精卵)が子宮腔以外の場所に着床して起こる妊娠のことで,全妊娠の1~2%に合併し,不妊治療後妊娠では3%,生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)後妊娠では4~5%にみられる。

    異所性妊娠は受精卵の着床異常のひとつであり,正常着床部位(子宮内膜)への着床が卵輸送障害などの因子により妨げられる,あるいは異所性部位への着床を促進する因子が存在する,などが原因として考えられる。

    発生部位としては圧倒的に卵管(特に膨大部)が多い。卵管膨大部妊娠は全体の約9割を占め,卵管峡部妊娠,間質部妊娠,卵巣妊娠が各数%,頸管妊娠,腹膜妊娠,帝王切開瘢痕部妊娠は各1%未満と稀である。

    異所性妊娠の既往,卵管の手術歴,クラミジア感染症を含む骨盤内感染症の既往,不妊治療,喫煙,流産歴,帝王切開歴などが発症リスク因子である。

    近年,ARTの増加,性感染症の蔓延などにより,異所性妊娠は増加傾向にある。

    最近では高解像度の経腟超音波や高感度hCG定性・定量検査の普及により,無症状のうちに診断されることが多くなった。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    典型的な症状は,続発性無月経に引き続く下腹痛と性器出血である。

    続発性無月経のみを主訴とし,無症状なことも多い。

    卵管破裂による大量出血などにより,出血性ショックで発症することもある。

    稀な部位の異所性妊娠では非典型的な症状や臨床経過を呈する(後述)。

    【検査所見】

    尿妊娠反応検査を行い,妊娠であることを確認する。

    尿妊娠反応検査が陽性で妊娠が確認されるものの,子宮腔内にGSが確認されない場合,正常妊娠(排卵遅延),流産,異所性妊娠,胞状奇胎のいずれも可能性がある。

    卵管妊娠の内診所見としては,患側の圧痛を伴う付属器腫瘤の触知,子宮頸部の可動痛が特徴的である。

    診断には超音波検査が不可欠である1)。経腟法が中心だが,腹腔内大量出血の評価などには経腹法も用いられる。

    子宮腔外に明らかに胎嚢(gestational sac:GS)(特に卵黄嚢や胎芽・心拍動を伴う)が確認できれば,異所性妊娠と確定できる。

    子宮腔外にGSは認めなくても,卵巣とは別に付属器腫瘤(多くは不均一な超音波像)があれば異所性妊娠(特に卵管妊娠)が疑わしい。

    急性腹症や,循環血液量減少を示す症状や所見(頻脈,低血圧,貧血など),ダグラス窩貯留液など腹腔内出血を疑う所見を伴っていれば,異所性妊娠,特に頻度から言えば,卵管妊娠(の破裂や流産)の可能性が高い。

    妊娠早期で症状や所見が乏しい異所性妊娠の診断は困難である。無症状で子宮腔内にGSが確認されなければ,1週間後には経腟超音波の再検査を行う。再検時(妊娠5~6週以降)にも子宮腔内にGSが確認されなければ異常妊娠が疑われる。経過観察する場合は,異所性妊娠や流産の可能性もあることを患者に伝え,腹痛などの症状があれば直ちに来院させるなど,緊急時における注意・指導を必ず行う。

    正常妊娠と異所性妊娠,流産,胞状奇胎の鑑別には血中(あるいは尿中)hCG定量検査がある程度有用である。血中hCGが1000~2000IU/L以上あれば経腟超音波でGSがほぼ描出可能なので,子宮腔内にGSが確認できない場合,まず異所性妊娠を鑑別するため付属器領域を中心に十分に観察を行う。ただし,こうした場合でもhCGが2000~3000IU/Lである症例の約2%,3000IU/L以上例の約0.5%は正常妊娠であったとも報告されているので留意する。これらでは多胎妊娠との関連性も指摘されている2)

    正常妊娠が完全に否定的であり,流産か異所性妊娠か不明な場合は,子宮内容除去術を考慮する。子宮内容物に絨毛が存在せず,術後もhCGが低下しない場合は異所性妊娠が強く疑われる。

    頸管妊娠や帝王切開瘢痕部妊娠を除く,ほとんどの異所性妊娠の診断には腹腔鏡検査が有用であり,診断に迷う例には積極的に行う。

    ダグラス窩のエコーフリースペースが3cmあれば200mL程度の腹腔内出血と推定される3)

    腹腔内出血の診断のため,かつてはダグラス窩穿刺が頻用されていたが,現在では施行頻度は減っている。ただし穿刺液(腹水)のhCG濃度が血中より高いことが異所性妊娠(卵管妊娠など)の特徴とされ参考所見となることがある。

    異所性妊娠は卵管妊娠ばかりとは限らない。子宮内にGSが存在したとしても安心せず,GSの位置にも注意することが大切である1)。早期GS像の部位は着床部位を反映して約80%は子宮底部に近い体部内膜にみられる。GSが子宮体部内膜から離れた位置に存在していれば頸管妊娠,間質部妊娠などの異所性妊娠を考える。頸管妊娠は進行流産と鑑別を要する。帝王切開既往妊婦では帝切創部筋層内にGSがないかを必ず確認する。

    稀であるが子宮内外同時妊娠(頻度:1/1.5万~3万妊娠)も存在する。特にART後の妊娠では頻度が著明に増加する(頻度:0.15~1%)ので留意する4)

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