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切迫流産・切迫早産

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  • ■治療の考え方

    正期産に至る前の妊娠37週未満で診断がなされるため,児の未熟性を優先し,可能な限り妊娠37週に到達できるよう治療を行いたいところではあるが,これら切迫流早産は,胎児が子宮内で快適に過ごす環境が損なわれた結果,症状が出現しているとも考えられる。近年,早期の切迫流早産と診断がなされた場合には,子宮内に高度の炎症,および病原微生物が存在していると報告された3)。また,当科の臨床データからも同様の結果を得ている4)

    子宮内の高度の炎症は,胎児炎症反応症候群(脳室周囲白質軟化症,慢性肺疾患,壊死性腸炎など)のリスクを上昇させ,さらに,子宮内病原微生物の存在は,胎児死亡,新生児敗血症,髄膜炎のリスクを上昇させる。すなわち,これらのリスクを考慮した治療戦略が必要である()。

    21_05_切迫流産・切迫早産


    ただ単に子宮収縮を抑制し妊娠期間の延長に努めるのみでは不十分であるばかりか,かえって予後を不良とする可能性があると考える。

    ■治療上の一般的注意&禁忌

    【注意】

    前述のように,注意したい点は子宮内炎症が胎児に与える悪影響,胎児炎症反応症候群である。子宮内に高度の炎症,重度の組織学的絨毛膜羊膜炎が存在している場合は,児の未熟性が問題となる早期の切迫流早産例が多く,新生児科と連携して娩出のタイミングを計りたい。

    切迫早産はその原因に病原微生物の子宮内感染が存在する可能性があるため,抗菌薬治療がなされるケースがあるが,切迫早産に対する抗菌薬投与は,児の脳性麻痺,新生児死亡を有意に増加させるとされ5),母体への明らかな感染徴候を認めない限り,投与は慎むべきであると現時点では解釈されている。

    【禁忌】

    胎児への感染が示唆される症例では,妊娠期間の延長を図る余裕はなく,直ちに娩出する必要があるため,子宮収縮抑制薬の投与は禁忌である。

    常位胎盤早期剥離では,切迫早産と類似の症状を呈することがあるため,切迫早産と診断し子宮収縮抑制薬を投与する際には必ず除外診断したい疾患である。常位胎盤早期剥離であれば,早期娩出とDIC管理が必須となる。

    ■典型的治療

    【軽度】

    安静で経過を観察し,症状が強い場合には子宮収縮抑制薬を考慮する。わが国の早産リスク因子の1つに,正規雇用以外のパートタイマーがあるため,医師が安静を指示した場合には自宅安静が望ましい。

    一手目:自宅安静

    二手目:ウテメリン®5mg錠(リトドリン)1回1錠 1日3回

    【中等度】

    早産が予測されるようなケースでは入院管理とし,子宮収縮抑制薬(リトドリンや硫酸マグネシウム)の点滴治療を開始する。また,妊娠33週未満の場合,母体ステロイド投与を考慮する。

    一手目:リトドリン塩酸塩点滴静注液50mg「オーハラ」(リトドリン)50μg/分(最大200μg/分),またはマグセント®注(硫酸マグネシウム)1.0g/時(点滴,最大2.0g/時)

    【重度】

    特に,妊娠27週までの超早産(1000g未満の児の出生)が予測されるようなケースでは重症度が高いと考える。しかしながら,治療に抵抗性を示すことが多く,陣痛をコントロールすることが困難であることが多い。その理由として,早期の早産ほど,高度の組織学的絨毛膜羊膜炎が存在しているためであると考えられる。妊娠週数の早い治療に難渋する切迫流早産例では,高次医療機関への速やかな搬送を考慮したい。

    入院管理を行い,子宮収縮抑制薬であるリトドリンまたは硫酸マグネシウムを投与する。

    一手目:リトドリン塩酸塩点滴静注液50mg「オーハラ」(リトドリン)50μg/分(最大200μg/分),またはマグセント®注(硫酸マグネシウム)1.0g/時(点滴,最大2.0g/時)

    児の肺成熟目的で以下の母体ステロイドを2日間投与する。

    二手目:〈一手目に追加〉リンデロン®注4mg(ベタメタゾン)1回12mg 1日1回(24時間ごと計2回,筋注)

    分娩(帝王切開,または経腟分娩)時の対応につき検討する。

    ■非典型例への対応

    子宮筋腫の変性,尿路感染症などに伴う一時的な子宮収縮に対し,切迫早産と診断するようなケースでは,原疾患の治療がなされ軽快すると同時に子宮収縮抑制薬の必要性がなくなるため,これを長期間の入院にさせないよう対応したい。

    ■文献・参考資料

    【文献】

    1) 日本産科婦人科学会, 他, 編:産婦人科診療ガイドライン─産科編2014. 日本産科婦人科学会, 2014, p134-8.

    2) Lencki SG, et al:Am J Obstet Gynecol. 1994;170(5 Pt 1):1345-51.

    3) Combs CA, et al:Am J Obstet Gynecol. 2014;210(2):125.e1-125.e15.

    4) Yoneda S, et al:Am J Reprod Immunol. 2015;73(6):568-76.

    5) Flenady V, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2013;5(12):CD000246.

    【執筆者】 齋藤 滋(富山大学医学薬学研究部産科婦人科学教室教授)

    【執筆者】 米田 哲(富山大学医学薬学研究部産科婦人科学教室講師)

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