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流産・不育症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-12
丸山哲夫 (慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授)
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  • ■疾患メモ

    【流産】

    自然流産とは,妊娠22週未満で自然に起こる妊娠の中絶である。ここでは,自然流産を流産と略する。

    単回の流産の頻度は約15%であり,多くは偶発的な受精卵の染色体異常に起因する。

    女性の年齢に依存して卵子の染色体分配のエラーの頻度が高くなるため,流産の頻度も上昇する。たとえば,40歳での流産率は30%を超える。

    【不育症】

    不育症とは,妊娠は成立するが流産や早産を繰り返し,生児が得られない状態を言う。

    不育症の多くは,流産を連続して2回繰り返す反復流産と,3回以上繰り返す習慣流産である。

    不育症カップルの約40~50%に流産を反復する原因(リスク)が存在する。

    不育症の主な原因(リスク)は,染色体構造異常,子宮形態異常,抗リン脂質抗体症候群,頸管無力症などである。

    不育症カップルの50~60%には原因(リスク)を見出せない。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    〈流産〉

    性器出血,下腹部痛,腰痛,などを呈する。

    無症状である場合も多い。

    悪阻の改善や消失がみられることもある。

    〈不育症〉

    妊娠はするものの,流産や死産を反復して生児が得られない状態にある。

    流産を反復していなくても,1回の妊娠10週以降の子宮内胎児死亡,妊娠高血圧症候群,あるいは子宮内胎児発育遅延の既往がある場合は,抗リン脂質抗体症候群を念頭に置いて不育症として対応する。

    【検査所見】

    〈流産〉

    超音波検査:胎嚢や胎芽・胎児の有無,それらの発育状況,胎児心拍の有無などで診断を確定する。

    血中hCG値およびその推移が補助的診断として用いられる。

    〈不育症〉

    以下に挙げる原因を検索する。これらの検索の前に原因(リスク)が見出せない割合が50~60%あること伝えておくと,検査結果の受け入れがスムーズになる。

    染色体構造異常:約4%に均衡型相互転座あるいはロバートソン転座を主とする染色体構造異常が認められる。カップルの双方に対してGバンド分染法による染色体検査を行い,異常があれば必要に応じて種々の遺伝学的検査に進む。

    子宮形態異常:先天性には,単角子宮,双角子宮,中隔子宮などの子宮奇形がある。後天性には,子宮筋腫・子宮腺筋症,子宮腔癒着症(アッシャーマン症候群)などにより子宮腔の変形や圧排が起こる。内診および経腟超音波検査でその存在を確認し,子宮鏡検査,子宮卵管造影検査,あるいは骨盤MRI検査などで確定診断並びに形態異常の程度などを把握する。

    抗リン脂質抗体症候群:抗リン脂質抗体は,細胞膜を構成するリン脂質およびリン脂質に結合する血漿蛋白に対する自己抗体であり,血管内皮障害などを通じて動静脈血栓症や流産・死産を引き起こす。2011年に提案された診断基準に則り,ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体〔IgM(保険未収載)・IgG〕,抗β2GPI抗体を調べて診断する。

    抗血栓性素因:プロテインC,プロテインS,第Ⅻ因子などの低下・欠乏により血栓が生じ,流死産を引き起こすと考えられているが,エビデンスレベルは必ずしも高くない。

    内分泌異常:コントロール不良の糖尿病,甲状腺機能異常(潜在性甲状腺機能低下を含む)がある。高プロラクチン血症や黄体機能不全なども不育症の原因になりうるが,そのエビデンスレベルは高くない。

    頸管無力症:性器出血や子宮収縮などがないまま子宮口が開大して流早産を反復する,と定義される。妊娠前に正確に診断するのは困難であり,既往歴や妊娠経過により(推定)診断される。

    流産組織(絨毛)染色体検査:単回流産では行う必要はないが,不育症患者の流産では,十分な説明とカップルの同意のもと,積極的に検査を行う。流産の多くは原因が判明することから,カップルが流産体験をスムーズに受容できる一助になるだけでなく,今後の検査や治療の方針を決める上で重要な情報が得られる。

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