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不妊症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-12
久慈直昭 (東京医科大学産科・婦人科学教室教授)
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  • ■疾患メモ

    晩婚化による挙児年齢の上昇により,不妊症と診断される患者は増加している。本項では,現代の不妊症の疾患概念を紹介するとともに,その治療の概要について説明する。個々の病因と治療の詳細については,既にある成書1),あるいはホームページ2)などを参照されたい。

    不妊症とは,何らかの医学的治療をしなければ妊娠が成立しない疾患群である。通常,男女が性行為により妊娠を試みて1年間妊娠しない場合,不妊症と診断される。

    体外受精・顕微授精(assisted reproductive technology:ART)という有効な治療法が普及した現在,不妊症はその病因およびART治療の有効性から,体内における受精障害,配偶子・受精卵の異常,子宮・母胎側の異常,の3つに分類できる。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    〈体内における受精障害(図1)〉

    20_33_不妊症

    正常な配偶子や受精卵が存在する,あるいは体内で産生可能であるにもかかわらず,何らかの原因により女性体内において精子と卵子の受精が起こらず妊娠が成立しない病態である。

    〈配偶子・受精卵の異常(図2)〉

    20_33_不妊症

    精子・卵子,あるいはこれらが受精して生じる受精卵に異常があるため妊娠が成立しない病態である。

    無精子症・卵巣不全が代表的であるが,臨床的に最も多いのは,女性の加齢により卵子が個体を発生させる能力(妊孕性)を消失することである。排卵卵子が個体発生能を持っている女性の割合は35歳以降減少し,45歳でほぼゼロとなる。いったん妊孕性を消失すると,男性・女性とも現在の不妊治療では妊孕性を回復することは不可能で,治療不能となる。

    〈子宮・母体側の異常〉

    子宮筋腫,子宮内膜異常などによって着床が妨げられ,妊娠可能な受精卵が子宮内に存在しても妊娠が成立しない病態を言う。

    【検査所見】

    〈体内における受精障害(図1)〉

    排卵因子:視床下部・下垂体機能異常,卵巣不全,多嚢胞性卵巣症候群(PCOS),乳汁漏出症,黄体機能不全など→基礎体温,各種ホルモン検査で診断。

    卵管因子:卵管通過障害(卵管閉塞・卵管留症など)・卵管周囲癒着→子宮卵管造影で診断。

    頸管因子:頸管粘液分泌不全・性状不良など→フーナーテスト等で診断。

    男性因子:造精機能障害(乏精子症,精子無力症,無精子症など),精路障害,性機能障害(勃起不全,射精障害)→精液検査などで診断。

    免疫因子:精子に対する自己免疫→抗精子抗体検査で診断。

    子宮内膜症→婦人科的診察・超音波・腹腔鏡で診断。

    原因不明:上記のいずれも正常であるが妊娠に至らない場合。子宮卵管造影上は卵管の通過性があるが輸送障害などで卵管に問題がある場合や,卵巣から排卵された卵子が卵管采に取り込まれない場合(ピックアップ障害)が,その主たる原因であると考えられている。

    〈配偶子・受精卵の異常(図2)〉

    無精子症や卵巣不全では精子・卵子を回収できないことで診断できる。

    卵子妊孕性消失については,ART治療で精子が卵子内に入ったことが確定できるにもかかわらず,その後受精・あるいは発生が正常に起こらない場合に診断確定する。診断確定のために必要なART失敗数は3~4回と考えられる。

    実際には,①ARTを施行して得られた受精卵が拡張胚盤胞という最終発生段階に達しない,②拡張胚盤胞に達し,複数回これを子宮に移植しても妊娠が成立しない,③月経初期血中FSH値20IU/L以上,④年齢45歳以上,などの場合に強く疑われる。

    〈子宮・母体側の異常〉

    子宮卵管造影で診断する。

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