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Focus |3|急性中耳炎

登録日:
2018-04-09
最終更新日:
2018-10-05
Key Points

鼓膜所見にこだわる!

治療の基本は経過観察!

耳鼻科への紹介をためらわない!

急性中耳炎は誤った抗菌薬投与がされやすい感染症のひとつです。発熱があって,鼓膜が赤い(ように見える)という理由だけで抗菌薬を投与してはなりません。急性中耳炎の診断には詳細な鼓膜の観察が必要であり,さらには急性中耳炎の診断がついたとしても,本当に抗菌薬投与が必要な急性中耳炎はそれほど多くありません。そして抗菌薬の選択においても注意が必要で,経口第3世代セフェム系抗菌薬や経口カルバペネム系抗菌薬といった不必要に広域な抗菌薬が選択されている場面が少なくありません。しかし,これらの広域抗菌薬が必要になる場面はほぼありません。

1 診断のポイント

1)どんなときに急性中耳炎を疑うか?

急性中耳炎は外来診療において最も多い細菌感染症のひとつです。1歳までに75%の小児が罹患するとされています1)。その診断には“詳細な”鼓膜の観察が必要であり,鼓膜の観察は小児科医として必須のスキルです。
乳幼児では耳痛を適切に表現できないことも少なくありません。耳を気にする様子があれば,中耳炎の可能性を考えることはそう難しくはありませんが,発熱と不機嫌だけを訴えて受診することも稀ではありません。発熱を認める児では必ず急性中耳炎の可能性を考えて,鼓膜の観察をするようにしましょう。日頃から鼓膜を見慣れていないと,いざ急性中耳炎の児の鼓膜を見ても異常所見に気がつかないかもしれません。
反対に,鼓膜所見にとらわれて他の重症細菌感染症を見逃さないよう,全身の診察も怠ってはなりません。急性中耳炎としてフォローされていて,なかなか治癒しないと思っていたら,他の部位に深部膿瘍がみつかった,ということも稀ではありません。

2)急性中耳炎の定義

わが国の『小児急性中耳炎診療ガイドライン』では,急性中耳炎を「急性に発症した中耳の感染症で,耳痛,発熱,耳漏を伴うことがある」と定義しています。急性発症であること,急性炎症の所見があることが重要となります。
米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)のガイドラインでは,急性中耳炎の診断において以下の3点が推奨されています。

•中等度から重度の鼓膜の膨隆,または外耳炎に起因しない耳漏を認める場合,急性中耳炎と診断する
•軽度の鼓膜の膨隆と,急性に発症した耳痛か重度の鼓膜の発赤を認める場合,急性中耳炎と診断する
•中耳液貯留を認めない場合,急性中耳炎と診断すべきでない

重度でない限り,鼓膜の発赤のみをもって急性中耳炎と診断するには不十分です。鼓膜の発赤は涕泣やウイルス性上気道炎でも生じえます。発赤の有無だけではなく,膨隆の有無やその程度,鼓膜の混濁の有無,中耳腔の液面形成の有無,など急性中耳炎の診断には詳細な鼓膜の観察が必須になります。

中耳液貯留を認めない場合は急性中耳炎とは診断できません。中耳液貯留の証明には気密耳鏡検査やティンパノメトリーが推奨されていますが,いずれも小児科医にとってはなじみの薄い検査です。鼓膜の膨隆,液面形成,外耳炎に起因しない耳漏,といった所見で代用するのが現実的と言えます。

3)急性中耳炎と滲出性中耳炎

滲出性中耳炎とは,中耳液貯留を認めるが急性炎症所見を伴わないものです。急性中耳炎の後遺症として発症する場合や,アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの他の疾患を背景として発症することもあります。小児の難聴の原因として最も多いものです。
遷延する場合には鼓膜チュービングなどの治療が考慮されます。
中耳液貯留を認めても,急性炎症の所見がなければ抗菌薬の適応はありません。

4)鼓膜の診かた(図1

①耳鏡をしっかりとホールドする

耳鏡の持ち方には,フォアハンド,ペンシルグリップ,バッグハンドなどがあります。自分の一番持ちやすい方法で,しっかりとホールドしましょう。

②耳介を引っ張って外耳道をまっすぐにする

耳介を後上方に引っ張り,外耳道をまっすぐにします。
3歳以下,特に1歳以下では耳介を後下方に引っ張ったほうが鼓膜の観察がしやすいことがあります。

③まっすぐになった外耳道に沿って耳鏡を挿入する

耳鏡を優しく挿入してから,観察を始めます。観察しながら挿入してはいけません。また,挿入した耳鏡をごそごそと動かしてはいけません。非常に痛いです。調節する場合,愛護的に行います。

2 想定される起炎菌

頻度の高い起炎菌

•肺炎球菌 M-3
•インフルエンザ菌 M-6
•モラキセラ

呼吸器感染症の起炎菌は基本的にこの3菌種で大部分を占めます。起炎菌が検出されたものの内訳は,肺炎球菌30%,インフルエンザ菌30%,モラキセラ10%程度,です。

3 治 療

1)基本方針

急性中耳炎は抗菌薬の不適切な使用が最も多い細菌感染症のひとつです。急性中耳炎は自然治癒傾向の強い疾患であり,原則として経過観察が第一選択です。何となく鼓膜が赤いから中耳炎だろうと診断して,何となく抗菌薬を処方してはなりません。しかし,「経過観察」であって,「放置」ではないことに注意して下さい。耳痛がある場合には,鎮痛薬(表1)で対応します。

2~3日間,経過観察し,改善傾向がなければ抗菌薬投与を考慮します。
AAPガイドラインでは重症例に限って初めから抗菌薬を投与することとなっています。特に2歳以下では重症化のリスクが高いと考えられていることから,抗菌薬投与を原則としていますが,それに対して否定的な報告もあり,若年だからといって必ずしも抗菌薬が必要とは限りません。

2)empirical therapy(表2


①2~3日の経過観察で改善傾向が乏しい場合

抗菌薬の適応となります。ほとんどの場合,AMPC(アモキシシリン)で治療可能ですが,中耳は抗菌薬の移行性が悪い臓器ですので,高用量であることが大切です。治療開始後48時間以内に改善が認められなければ,他の薬剤に変更します。

②β-ラクタムアレルギーの場合

ST,ニューキノロン系などの他の薬剤も選択肢となります。

3)高用量AMPCで改善傾向にない場合(表3


①内服薬

β-ラクタマーゼ産生菌を考慮してAMPC/CVA(アモキシシリン/クラブラン酸) A-1 に変更します。施設によっては経口第3世代セフェム系抗菌薬が頻用されていますが,経口第3世代セフェム系抗菌薬はバイオアベイラビリティが非常に低く,使用する場合には高用量で用いる必要があります。不必要にスペクトラムが広く,低カルニチン血症という合併症のリスクもあり,経口第3世代セフェム系抗菌薬を積極的に使用する理由はありません。

②静注薬

ABPC(アンピシリン) A-1 も選択肢となります。内服と静注では血中薬物濃度が大きく異なります。スペクトラムは変わらなくとも血中濃度が上がることで治療可能になる場合も少なくありませ ん。ペニシリン耐性菌やβ-ラクタマーゼ産生菌が考えられる場合はCTRX(セフトリアキソン) A-5 を外来で1日1回投与します。

4)フォローすべきパラメーター

•鼓膜所見
•発熱,耳痛

5)治療期間

•2歳未満:10日間
•2歳~5歳未満:7日間
•5歳以上:5日間

AAPガイドラインでは上記期間が推奨されています。

6)耳鼻科医への紹介のタイミング

「◯◯くらい自分で診られなきゃだめだ」というエラい先生のありがたい声も聞こえてきそうですが,何でもかんでも小児科医が抱え込んでしまうのは,小児科医にとっての最大の目的である“こどもの最善の利益”に反します。
本書では,「日頃から耳鼻科医と信頼関係を築き,耳鼻科への紹介をためらわない」くらいのスタンスが望ましいと考えます。

①耳垢で鼓膜が見えないとき

中耳炎を強く疑っているときや,どうしても中耳炎を否定したいときは,筆者は耳鼻科に紹介しています。
人肌に温めた生理食塩水を吸ったシリンジに,留置針の外套を接続し,外耳道に注入し,洗浄するという方法もあります。冷えた生理食塩水では,めまいを誘発してしまうので注意しましょう。

②抗菌薬治療に抵抗性で鼓膜切開が必要と考えるとき

感染症治療の基本のひとつは,「ドレナージできるものはないか,抜去できるデバイスはないか」です。抗菌薬治療で改善しない場合にはドレナージ(鼓膜切開)も考慮しなければなりません。

③滲出性中耳炎のとき

滲出性中耳炎は長期間のフォローアップが必要であり,時に鼓膜切開やチュービングといった外科的処置が必要になることがあります。無理せず専門家に紹介するのがよいと思っています。


●文献

1) Faden H, et al:Otitis media: back to basics. Pediatr Infect Dis J. 1998;17(12):1105-12.

2) Lieberthal AS, et al:The diagnosis and management of acute otitis media. Pediatrics. 2013;131(3):e964-99.

3) 草刈 章, 他:小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン 私たちの提案. 外来小児. 2005;8(2):146-73.

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