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顔面・頸部外傷[私の治療]

No.5062 (2021年05月01日発行) P.59

大槻穣治 (東京慈恵会医科大学附属第三病院救急部特任教授)

登録日: 2021-05-01

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  • 顔面・頸部には,狭い範囲に,その障害により生命や後の機能に大きな障害を残す可能性のある器官が集中しており,初期診療より迅速で的確な診断・治療が望まれる。特に注意すべきは生命に直結する気道閉塞,制御不能な出血,頸髄損傷の合併であり,初期治療の目的は気道確保による呼吸の安定,止血による循環の安定,脊柱の不安定性による二次損傷の予防である。それらが安定した後,整形外科・眼科・耳鼻科・歯科口腔外科・形成外科など専門各科と協力し,機能温存,美容的問題を考慮する。

    ▶病歴聴取のポイント

    意識清明な場合は,受傷機転と呼吸困難,開口障害,複視の有無を含む視力・聴力の異常,局所の自発痛・圧痛,四肢のしびれ・麻痺などの愁訴の有無や程度を尋ね,既往に脊椎の変形や脊柱管の狭窄をきたすような疾患・変性がないかを確認する。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    【顔面外傷】

    気道周囲組織の浮腫・内出血による気道狭窄,下顎骨骨折による舌根沈下,大量の気道内出血,義歯や脱落した歯牙などを原因とした気道閉塞,Le Fort型骨折や上・下顎骨骨折に伴う外頸動脈系の出血,頭蓋底骨折などに伴う内頸動脈系の出血や海綿静脈洞損傷など,緊急性の高いものをまず念頭に置く。触診により圧痛や知覚障害,顔面骨の不安定性や轢音の有無を,開放創では鼻腔,口腔との交通,神経や腺組織の損傷の有無を確認する。顔面の上2/3の外傷では視神経損傷,眼窩壁骨折などによる複視や視機能障害を,耳外傷では鼓膜損傷,外耳道出血,髄液耳漏などによる聴力障害を,頬骨弓骨折,下顎骨関節突起骨折では開口障害を,顔面の下1/3の外傷では咬合障害をきたす。

    【頸部外傷】

    まず,主要血管や気管・食道損傷を疑う大量喀血,開放創からの気泡,高度の皮下気腫,活動性の血腫,ショックを伴う外出血,閉塞性ショックなどの頸部外傷のhard signと言われる所見を認めた場合は,速やかな外科的手術を必要とする1)

    頸椎・頸髄損傷を疑う状況や,乳幼児,高齢者,飲酒者,意識障害のある症例等,正確な神経所見がとれない場合には,画像診断などでそれを否定できるまでは頸部をneutral positionとし,固定して診察を行うが,変形が強い場合や強い痛みを訴える場合は無理に整復してはならない。バックボードによる全脊柱固定を行って搬送された場合は,バックボードの固定解除は体動時に頸椎に過度の力が加わることを防ぐため頭部より行い,2時間以上の固定は褥瘡を発生する可能性があるため,背部観察やCT施行後には除去する。上位頸髄損傷では,横隔膜を支配する横隔神経(C3~C5)と肋間筋を支配する肋間神経(Th1~Th11)のどちらもが障害され,自発呼吸は停止する。下位頸髄~上位胸髄の損傷では肋間筋が障害され,横隔膜のみの呼吸(腹式呼吸)となる。

    末梢血管を支配する第1胸髄~第2腰髄(Th1~L2)より上位の脊髄損傷では,末梢血管は拡張し血圧は低下するが,他のショックと異なり皮膚蒼白や冷感は認めない。また,心臓は第1~4胸髄(Th1~4)からの交感神経と延髄からの副交感神経(迷走神経)の二重支配を受けているため,上部胸髄より上位の脊髄損傷では交感神経の支配が断たれ,副交感神経優位となり,血圧低下にもかかわらず徐脈となる。これらを神経原性ショック(neurogenic shock)と呼ぶ。

    損傷は損傷部以下のすべての知覚・運動機能が消失する完全型と,何らかの知覚・運動機能が温存される不完全型にわけられる。不完全型では,下肢に比べ上肢に強い運動麻痺と様々な感覚障害を特徴とする中心性脊髄損傷が最も多い。

    脊髄の完全損傷では,その直後には損傷された脊髄レベル以下のすべての脊髄反射が一過性に消失し,弛緩性麻痺,感覚障害,腱反射消失となる。これを脊髄ショック(spinal shock)と呼び,多くは数時間~数週間の間に徐々に回復する。また,膀胱直腸障害や自律神経症状として発汗消失や持続勃起が認められる。

    その後は脳からの制御がきかなくなり、痙性となり,腱反射は亢進するが,知覚・運動障害は回復せず,筋は萎縮する。

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