株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

マダニ媒介性感染症の初期対応─マダニを付けてきたら

No.4909 (2018年05月26日発行) P.47

馬原文彦 (馬原医院院長/馬原アカリ医学研究所理事長)

登録日: 2018-05-25

最終更新日: 2018-05-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • わが国に常在するダニ媒介性感染症としては,発生数からつつが虫病,日本紅斑熱,ライム病などがまず考えるべき疾患である。そのほか,野兎病,Q熱,ヒト顆粒球アナプラズマ症,ダニ媒介脳炎,新興回帰熱などがダニによる感染症と認識されている

    2013年に重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の症例がわが国にも存在することが報告された。新種のウイルスによる感染症で致死率も高く,マダニにより媒介されることから,マダニ刺咬に対するさらなる注意が喚起された

    本稿ではマダニ媒介感染症である日本紅斑熱,SFTSについて述べるとともに,マダニ刺咬患者への初期対応およびマダニの除去法について言及する

    1. 日本紅斑熱の現況

    1 依然として増加し続ける発生数,拡大する発生地域

    日本紅斑熱は1984年に筆者により初めて臨床例が報告された新興感染症である。99年施行の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)により4類感染症に指定された。発生数は4類感染症の中で,レジオネラ,つつが虫病(400例前後)についで多く,年により変動はあるものの,右肩上がりに増加している(300例前後)。2017年は史上最多である337例が報告された。

    発生地も九州,四国等西日本を中心に沖縄から青森まで発生しており,旅行や物流の広域化を考えると,日本中どこでも起こりうる感染症と考えるべきである(図1)。好発時期は,マダニの活動やヒトとマダニとの接触の機会等の地域特性により異なるので,その地域の特性を把握した上で対応する必要がある。

       

    2 臨床症状

    本症は2~10日の潜伏期を経て,2~3日間体調不良や微熱が続いた後,頭痛,発熱,悪寒戦慄をもって急激に発症する。他覚所見は高熱,発疹,刺し口が3徴候である。最近の日本紅斑熱の臨床所見に関する多施設調査研究によると,平均値で見た主要所見としては,発熱では37℃以上99%,38℃以上90%,39℃以上66%,紅斑は99%,刺し口は69%であった1)。これまであまり注目されていなかった消化器症状が約20%に認められ,消化器症状を主徴とする新興のマダニ媒介性感染症である重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)との鑑別に際して注意を要する。体温は,つつが虫病と比較してやや高い傾向にあり,重症感がある。急性期には39~40℃以上の弛張熱,重症例では40℃以上の高熱が稽留する。発疹は,高熱とともに,手足,手掌,顔面に米粒大から小豆大の辺縁不整形の紅斑が多数出現する。瘙痒感がないのが特徴的である。発疹は速やかに全身に広がる。手掌部の紅斑は,つつが虫病ではみられない日本紅斑熱に特徴的な所見である。重症例では,紅斑はしだいに出血性となるが,治療による解熱に伴い消退する。刺し口は定型的には5~10mmの赤く円い硬結で,中心部に潰瘍もしくは黒い痂皮を有する。しかし,媒介マダニの多様性や刺咬されてから来院までの経過日数などにより,膿瘍形成から痂皮瘢痕形成まで形態に多様性がある。

    重症化すると,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)や多臓器不全(multiple organ failure:MOF)を呈する。死亡例の多くは診断と治療の遅れによるものであり,引き続き医師や住民への啓発が必要である。

    3 診断

    野山や田畑への立ち入りの既往を注意深く聞くことが診断の第一歩である。前述の臨床主要3徴候に加えて,CRP強陽性,血小板減少,肝機能障害等があれば,日本紅斑熱を含むリケッチア症を疑う。また,肝機能障害(トランスアミナーゼの上昇)やDICの進行(血小板数減少,FDPの上昇)等は予後を左右する。発疹を伴う原因不明のDIC,MOFの場合には特に本症を念頭に置く必要がある。

    確定診断は,間接蛍光抗体法もしくは間接免疫ペルオキシダーゼ法を行い,ペア血清で抗体価の4倍以上の上昇,またはIgM抗体価の上昇を証明する。患者血液や刺し口のカサブタを用いたPCR法による検出率も近年向上してきている。特に痂皮を用いたPCR法は診断率が高い(90%以上)とされているので,早期診断に有用である。

    4 治療

    熱性疾患に一般的に使用される抗菌薬であるペニシリン系,セフェム系,アミノグリコシド系の各薬剤などはまったく無効である。近年の重症例,死亡例の蓄積とともに治療法の再検討を行った結果,日本紅斑熱と診断した場合「ドキシサイクリン(DOXY)やミノサイクリン(MINO)などのテトラサイクリン系薬剤を第一選択薬とするが,1日の最高体温39℃以上の症例では,直ちにテトラサイクリン系薬剤とニューキノロン系薬剤による併用療法を行う」ことを提唱している2)

    日本紅斑熱の重症化の機序に関して,サイトカインの研究が進展している。日本紅斑熱患者のサイトカインの異常活性化に至った症例では全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)を呈し,重症化すると考えられている。治療に用いられるこれら抗菌薬は,リケッチアに対する直接的な作用に加え,サイトカイン産生を制御する可能性があることが示唆され,MINOおよびDOXYはこの作用を有する。また,ニューキノロン系薬剤の中ではシプロフロキサシン(CPFX)をtherapeuticに推奨してきたが,最近の実験室研究からこの選択を支持する発表がなされている3)

    残り3,549文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top