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DMORTの役割[先生、ご存知ですか(2)]

No.4900 (2018年03月24日発行) P.63

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2018-03-23

最終更新日: 2018-03-19

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東日本大震災の発生から7年が経過しました。3月11日はわれわれ医療者にとって災害時の医療についての課題を改めて考えさせられる日です。

先生方は、DMAT (Disaster Medical Assistance Team)については聞き慣れているかと思います。これは、医師、看護師、その他職員で構成され、大規模災害が発生した現場などで急性期(48時間以内)に活動できる機動性をもった、専門的訓練を受けた医療チームです。東日本大震災の被災地でも、多くのDMATが活躍しました。

災害は予想を超えた破壊と窮迫をもたらす緊急事態で、長期間にわたり公衆衛生と精神保健上の問題を起こします。したがって、災害急性期からの心のケアも必要です。そこで、災害派遣精神医療チームであるDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)が発足しました。

DPATは、大規模災害などの後に被災者および支援者に対して、精神科医療および精神保健活動の支援を行うための専門的な精神医療チームです。機能停止した精神科医療機関における人員や物資の支援、精神疾患を持つ被災者への医療的支援、災害のストレスなどによる精神的諸問題を抱える人への医療的対応が行われます。

さて、大規模災害により多数の傷病者が発生した際には、限られた医療資源を有効に利用すべく、トリアージが行われます。対象者を、最優先治療群(赤タッグ)、待機的治療群(黄タッグ)、軽症群(緑タッグ)、死亡あるいは救命困難群(黒タッグ)に選別します。

2005年4月に発生したJR福知山線の脱線事故では、107人の死者と562人の負傷者が発生しましたが、阪神淡路大震災の教訓から現場でのトリアージが円滑に進みました。特に、現場で黒タッグをつけられた人が近隣の医療機関に搬送されることはなく、医療資源の有効利用につながったと、救急医療関係者の間では評価を得ました。

一方で、黒タッグをつけられ、死亡した人の遺族に強い悲嘆反応が残ることが分かりました。すなわち、家族を失った悲しみと、変わり果てた姿を見ることで、強い精神的ダメージを受けます。そして、黒タッグがつけられたが故に搬送さえしてもらえなかったことなどで、悲嘆反応や心身の不調が遷延することが指摘されました。

したがって、このような災害時の遺族には特化した対応が必要です。大規模災害時の遺族に関する問題について検討するのが、災害死亡者家族支援チーム(Disaster Mortuary Operation Response Team:DMORT)です。DMORTは災害急性期から、遺体と家族の面会に立ち会い、取り乱す家族への対応など、災害時における急性期の遺族ケアを実践します。大規模災害は同時多発的な喪失体験であることから、遺族に対する急性期からのグリーフケアを実践することが重要です。

滋賀県では、大規模災害を想定し、トリアージで黒タッグがついた直後からの死体検案、身元確認、遺族への説明と遺体をお返しする過程すべてを網羅した包括的訓練を2016年から開始しました。災害急性期から遺族に対する心のケアを実践して、参加者がDMORTとしての働きを実践できるように工夫しています。DMAT、DPATに加え、大規模災害時の医療の一つとしてDMORTがあることをご記憶いただきたいと思います。

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