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(3)腸内細菌と各種疾患 ─糖尿病・肥満 [特集:腸内細菌の臨床応用の可能性]

No.4807 (2016年06月11日発行) P.32

金澤昭雄 (順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学准教授)

綿田裕孝 (順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • 腸内細菌の数はおよそ100兆個である。その種類は1人あたり数百種類に上り,個々の菌が集まって微生物生態系を構築している。この微生物群集は腸内フローラと呼ばれており,その構成は食習慣や年齢などによって個々で異なるとされる

    食事内容が腸内フローラのバランスに影響を与え,インスリン抵抗性を惹起する因子のひとつになる

    食事内容の変化,腸内フローラの乱れは腸管バリア機能の低下をもたらし,bacterial translocationを介して,宿主に慢性炎症を引き起こす

    腸内フローラの改善によって肥満・糖尿病の病態が改善する可能性がある

    1. 糖代謝と腸内フローラ

    腸内フローラには,ヒトの消化酵素では完全に分解することが困難である食物繊維などを利用し,発酵を介してエネルギーを回収する作用がある。1日に要求されるエネルギーの約8~10%は,大腸での腸内細菌による発酵によってもたらされるとされる1)
    食物繊維の発酵による主要な産物は短鎖脂肪酸(有機酸)であり,酪酸,酢酸,プロピオン酸などが主に生成される。酢酸が脳,筋肉などで代謝されるのに対し,プロピオン酸は肝臓で代謝され,糖新生の基質にもなりうる2)。また,プロピオン酸は糖新生の基質としての役割以外にインクレチン分泌への関与も報告されている。GLP-1(glucagon-like peptide-1)分泌細胞のL-cellにはG-protein-coupled receptor(GPR) 43が存在し,プロピオン酸が結合するとGLP-1の分泌が促進され,GPR43をノックアウトしたマウスでは糖代謝の悪化が報告された3)。また,最近の報告では善玉菌であるLactobacillus reuteriを非糖尿病の肥満患者に4週間投与したところ,GLP-1とC-peptideの分泌の増加が認められた。このように腸内フローラとインクレチンの分泌の関連も注目されつつある4)

    2. 肥満と腸内フローラ

    肥満者において腸内フローラの乱れが生じていることは,すでに海外で報告されている5)。Firmicutes門の細菌群が増加し,Bacteroidetes門の細菌群が減少するとされる。Firmicutes門の細菌は食物繊維を分解し,宿主にエネルギーを供給する腸内で最も多い菌群であり,Firmicutes門の細菌の増加がエネルギーを過剰に宿主に供給することが肥満症の一因になっている可能性がある。この仮説では,マウスの動物実験において,Ob/Obマウスの便中ではFirmicutes門の細菌群,酢酸と酪酸がコントロールマウスに比べ有意に増加し,さらにOb/Obマウスの腸内細菌を無菌マウスの腸内に移植すると有意に体脂肪が増加することが報告され,Firmicutes門の細菌増加が腸管からのエネルギー吸収を増加させることが示された(図1)6)

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