メトホルミンは糖尿病治療薬の中心を担っているが,腎機能障害や心不全の患者では致死的な乳酸アシドーシスを増加させる,として禁忌とされてきた。しかし,近年の臨床試験の結果は必ずしもそれに合致せず,2016年4月,米国食品医薬品局(FDA)は,軽度および一部の中等度CKDにおけるメトホルミンの使用は安全である,と結論づけた。
それを受け同年6月,日本糖尿病学会はメトホルミンの適正使用に関するRecommendationを改訂した1)。全身状態の悪化がないことを前提に,eGFR 30(mL/分/1.73m2)未満は禁忌,eGFR 30~45はリスクとベネフィットを勘案し慎重投与,eGFR 45~60は腎血流を低下させる薬剤に注意しながら使用可とし,腎機能障害でも使用できるように制限が緩和された。また,eGFR 60以上であれば造影剤使用前のメトホルミンの中止が必要なくなった。
17年,Crowleyら2)は,中等度の腎機能障害/心不全例においてメトホルミン使用群で全死亡率の低下を認めた,とするシステマティックレビューを報告している。しかし現在,わが国での腎機能障害・心不全例での安全推奨量は設定されておらず,今後の臨床データの集積が重要である。
【文献】
1) 日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」:メトホルミンの適正使用に関する Recommendation. 2016. [https://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/recommendation_metformin.pdf]
2) Crowley MJ, et al:Ann Intern Med. 2017;166 (3):191-200.
【解説】
川野義長*1,目黒 周*2,伊藤 裕*3 *1慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科 *2同専任講師 *3同教授