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(1)神経疾患に対する脳深部刺激療法の最新知見 [特集:脳刺激療法で治療できる症状・疾患]

No.4798 (2016年04月09日発行) P.24

深谷 親 (日本大学医学部脳神経外科学系応用システム神経科学分野准教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2021-01-05

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  • 脳深部刺激療法(DBS)は不随意運動に有効であるが,特にパーキンソン病,本態性振戦,ジストニアに高い効果を示すことが多い

    DBSの良い適応となるパーキンソン病は,L-ドパに対する反応が高く,wearing-offがはっきりとしている症例,あるいは抗パーキンソン病薬の副作用に悩まされている症例である

    DBSは本態性振戦に特に有効であるが,外傷後や脳血管障害後の振戦にもしばしば有効である。薬剤抵抗性のパーキンソン振戦にも高い効果を示す

    1. 脳深部刺激療法(DBS)とは

    脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は,視床や大脳基底核などの脳深部に直径1mm程度の電極を挿入留置し(図1),持続的に電気刺激で疾患の治療を行うものである。通常,前胸部皮下に心臓ペースメーカーによく似た神経刺激装置を埋設し,これに電極を結線して刺激パルスを送る(図2)。
    DBSには,刺激をoffにすれば,ほぼ術前と同じ状態に戻すことができる「可逆性」と刺激条件を変更することによって病態に対応できる「調節性」という2つの優れた特長があるため,様々な疾患の治療法として普及してきている。日本国内では,治療対象のほとんどは不随意運動症と難治性疼痛であるが,欧米ではてんかん,精神疾患,認知症などに対する治療法としての臨床研究も行われている。全世界で現在までに12万5000症例以上がDBS手術を受け,国内でも7000症例以上がDBSを受けていると推定される。こうしたことからも,DBSの有効性と安全性については,一定の社会的評価がなされていると言えよう。
    国内では何種類かのデバイスが使用可能であるが,充電式と非充電式にわけられる。非充電式は充電なしで3~5年持つが,電池がなくなった場合には局所麻酔下での簡単な神経刺激装置の交換手術が必要である。体外充電式のものは,数日に1度20~30分の充電が必要となる。
    DBSは,様々な不随意運動に対して有効であることが知られているが,特にパーキンソン病,本態性振戦,ジストニアに対する効果は確立していると言える。最も症例数が多いのはパーキンソン病で,80%以上を占めると考えられる。振戦は様々な疾患に付随して起こるが,パーキンソン病に伴う振戦と本態性振戦に最も有効である。ジストニアは筋緊張の異常を特徴とする病態であり,やはり様々なタイプのものがあるが,若年発症の全身性ジストニアに特に有効である。
    DBSの手術合併症で大きな問題となるのは,頭蓋内出血と感染である。出血性合併症の発生率は,従来の論文を総括すると平均4.4%である。ただし,症候性は平均2.2%で神経脱落症状が後遺したのは平均1.0%であった。感染性合併症の発生率は平均4.0%であった。多くは植え込んだ部の皮下感染で,頭蓋内に進展することは少なかった1)。また,比較的最近の日本における調査では,出血は1.8%でその約半分が症候性であり,永続的な神経脱落症状を残したものは0.2%であった。感染は2.8%で,やはり頭蓋内に進展するような重篤なものは少なかったが,感染を生じた場合には保存的治療では完治せず,すべてのデバイスを抜去する必要が生じることが多かった。

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