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(3)成人もやもや病の管理と手術適応の判断[特集:もやもや病の診断と治療の現在]

No.4884 (2017年12月02日発行) P.41

髙橋 淳 (国立循環器病研究センター脳神経外科部長)

登録日: 2017-12-01

最終更新日: 2021-01-07

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  • 虚血型(脳梗塞または一過性脳虚血発作)と出血型(脳出血,脳室内出血,くも膜下出血)が半々,両型は同一疾患の別表現型で,しばしば併存あるいは移行例が存在する

    出血発作は,代償性に発達した側副血行路への長期の血行力学的負荷が原因と推定される。脳実質破壊による死亡・重度機能障害ときわめて高い再出血率が問題

    虚血型には小児例同様に抗血小板薬の投与が推奨されるが,その血小板凝集能抑制作用により,万一出血型に移行した場合,頭蓋内出血が重篤化することに注意が必要である

    虚血型で血行力学的障害(脳灌流圧低下)が重度の例では,小児例同様に頭蓋外─頭蓋内バイパス手術が有効である。虚血発作の消失により抗血小板薬から離脱可能となる

    JAM Trial(2001~13年)と副次研究により,出血型患者,特に視床や側脳室後半部などの後方出血群で,頭蓋外─頭蓋内バイパス手術が再出血率を有意に低減することが示された

    1. 成人もやもや病の病態とその特殊性

    成人発症もやもや病は,脳梗塞または一過性脳虚血発作を呈する「虚血型」と,脳出血・脳室内出血・くも膜下出血を呈する「出血型」が半数ずつを占める。その他,検診等で発見される「無症候型」も少数存在するが,もやもや病の有病率は10万人当たり3.16~10.5人と僅少であり,偶然発見例の頻度はさほど高くない。小児例と異なり,成人もやもや病の病態および臨床的挙動を決定づける要因は,おそらく「長い罹患期間」にある。血管病変の初発時期を知ることは困難であるが,成人もやもや病患者の病歴聴取において,小児期の一過性脳虚血発作を想起させるイベント(例:啼泣時の上肢脱力発作やしびれ)が判明することは稀ではなく,多くの例で初発から相当の長期間が経過している可能性がある。小児もやもや病のほとんどが虚血型なのに対し,成人例で出血型が急増するのは,増生した側副血行路への血行力学的負荷が長期に及んだ結果,これらの血管の変性・破綻をまねくためであろうと推定される。

    2. 虚血型成人もやもや病の管理と手術適応

    1 検査

    成人例の約半数が小児例同様の血行力学的脳虚血,すなわち脳主幹動脈閉塞による脳灌流圧低下の結果としての脳虚血発作(脳梗塞,一過性脳虚血発作)により発見される。MRIのDWI(拡散強調画像)で直近の新鮮梗塞を,T2強調画像またはFLAIR(fluid attenuated inversion recovery)画像で過去の梗塞が評価できる。両側内頸動脈終末部を主体とする主幹動脈の閉塞性変化は,MRAで容易に(というよりも,現実の狭窄率よりも過大に)とらえられる。小児例との違いは,「動脈硬化性変化」や「脳血管狭窄をきたす自己免疫疾患」などとの鑑別を要することであり,確定診断としてカテーテルによる脳血管造影が必要となる。また,成人では,たとえ虚血型であっても無症候性に微細な脳実質内出血を生じていることが稀ではない。これらはMRI T2(T2star)画像で評価が可能である。

    脳血行力学的障害の重症度の判定は,もっぱら核医学的画像診断,すなわちSPECTまたはPETにより行われる。

    (1)SPECT

    国内医療機関に広く普及している。123I-IMPや99Te-ECD等の脳血流トレーサーを静注後,ガンマカメラによるスキャンを行うことで,脳血流量とその空間的分布を知る。

    主幹動脈閉塞により脳灌流圧が低下すると,脳血管床が代償的に拡張して脳血流量を維持しようとする。このため,安静時SPECTと呼ばれる通常検査は「代償機転が働いた脳血流分布」を見ていることになる。どれほど代償が働いているか(=灌流圧低下の程度)を知るため,脳血管床拡張作用を有するアセタゾラミド(炭酸脱水酵素,ダイアモックス®)静注後の負荷SPECT検査を併用する。正常部位ではアセタゾラミドにより脳血管が拡張して40~50%の脳血流量の上昇率(脳血管予備能値と呼ぶ)を示すが,既に代償機転が働いている部位では新たな血管床拡張の余裕がなく,脳血管予備能値が著しく低下する。

    (2)PET

    脳循環測定目的には通常,放射性同位元素15Oを用いた測定法が用いられる。SPECTで測定できるのは脳血流量およびその変化率のみであるが,PETでは脳血流量,脳酸素代謝量,脳酸素摂取率,脳血液量という4つのパラメータが測定でき,脳循環動態をより正確に把握できる。ただし15Oの半減期はわずか2分であり,サイクロトロンによるトレーサー作成と並行して検査を行う必要があるため,安定的に脳血流PETを行える施設はきわめて限定される。

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