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絞殺の判定に用いられる吉川線とは?【絞頸された被害者の頸部の表皮剝脱で,防御創と認められる他殺の判断材料】

No.4882 (2017年11月18日発行) P.64

山本啓一 (山本医学鑑定研究所代表)

登録日: 2017-11-17

最終更新日: 2017-11-14

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  • 頸部を絞められた際に抵抗した証として法医学では「吉川線」が知られていますが,どのようなものでしょうか。

    (兵庫県 K)


    【回答】

    吉川線とは,絞頸された被害者の頸部に認められることのある表皮剝脱のことで,被害者の抵抗によって生じた一種の防御創と考えられています。したがって,損傷が吉川線であると診断されれば,他殺と判断されます。吉川線は,大正期に,この損傷の重要性に初めて着目して学会に発表したとされる警視庁の吉川澄一氏に因んだ命名とされています。

    わが国のいくつかの法医学書にも,吉川線として記載されています1)~3)。外国の法医学書の窒息の項の記載中にも,以下のように,吉川線関連の記述が認められます。

    「被害者が紐を除こうとして,あるいは,締め付けをゆるめようとして,頸に爪を立てれば表皮剝脱が生じる」4)(これは吉川線そのものです)。
    「被害者が,加害者の絞めつけようとする手を振りほどこうとして,痕跡を残す」5)(吉川線が扼頸の場合にも生じる可能性を記しています)。
    ただ,今のところ,吉川線の性状やその出現部位,出現頻度に関するまとまったデータはないようです。

    吉川線は自他殺の診断の際に重要ですが,以下の例6)が示すように,診断を誤ると重大な結果をまねくことがあります。ネクタイで絞頸された若い女性の右頸部の2箇所に表皮剝脱群が認められました。1つは索溝(圧痕)の上縁,もう1つは下縁の,いずれも延長線上にありました(上部および下部表皮剝脱群と呼んでおきます)。上部表皮剝脱群は2.3×0.4cm大で,5個の横に並ぶ表皮剝脱からなっていますが,各表皮剝脱間の間隔に関する記載は鑑定書にはありませんでした。下部表皮剝脱群は,単一の表皮剝脱ではなく,写真から判定する限り,横に並ぶ4つの表皮剝脱でした。

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