無痛分娩に関する事故報道が相次ぐなか、先月には医療事故調査制度の対象事例に関し、調査報告書の内容が報道され、医師、助産師などで構成する日本産婦人科協会が危機感を募らせている。事務局長の池下久弥氏(池下レディースチャイルドクリニック院長)に話を聞いた。
10月8日付の読売新聞の記事「無痛分娩死、急変時処置『蘇生に有効と言えず』」には憤りを感じました。記事では妊婦が死亡した事例について、医療事故調査制度に基づき作成された報告書を入手したとして、報告書の中の「人工呼吸が優先されるべきだった」などの文言を紹介し、「医学的見地からもミスが裏付けられた」と記者が書いています。
記事を読んで問題だと思うのは、報告書に「人工呼吸が優先されるべきだった」などと医療事故の回避可能性が書かれていること。この事例の医師は現在、業務上過失致死容疑で書類送検されています。事故調の目的は医療安全の確保であり、個人の責任追及ではありません。しかし記事では、この回避可能性が刑事事件における責任追及の根拠になっているし、マスメディアが実名を出して医師の責任を指摘している。制度の趣旨から全く離れていますし、医療安全向上のための報告書が医師を追い詰めてしまっています。
この報道を受けて、協会では改めて医療事故調査制度について会員に周知する必要があると感じています。
まず、医療事故調査制度は医療安全向上のために、非識別性を担保し、システムエラーの集積を図り、医療現場にフィードバックする制度であるということ。報告書の作成も制度の趣旨に合った内容でなければなりません。
もう1つは報告書の扱いです。遺族への説明方法は法令上、口頭か書面(報告書または説明用資料)とされています。報告書を渡すことについては以前より訴訟に使用される可能性が指摘されてきました。今回、新聞社が誰から報告書を入手したのか分かりませんが、仮に遺族に報告書を渡した場合、マスコミに流れる可能性も踏まえて説明方法を考える必要があると思います。