株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

くも膜下出血手術後の聴力障害は改善するか? 【聴神経の形態が温存されていれば,数カ月単位で徐々に改善する望みはある】

No.4879 (2017年10月28日発行) P.60

月花正幸 (北海道大学大学院医学研究科・医学部脳神経外科)

登録日: 2017-10-28

最終更新日: 2021-01-07

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 60歳,男性。くも膜下出血を起こし翌日手術(内耳動脈付近の動脈瘤破裂に対するクリッピング術)を受けました。術後,軽い顔面麻痺と左耳の聴力消失が起こりました。後日,顔面麻痺は改善しましたが,左耳の聴力は改善しません。改善させる方法はありますか。

    (埼玉県 Y)


    【回答】

    内耳動脈は,前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery:AICA)のmeatal loopという顔面神経(Ⅶ)・内耳神経(Ⅷ)に近接する部分から分岐する頭蓋内の細い血管です。本症例は,破裂末梢性前下小脳動脈瘤(distal AICA動脈瘤)へのクリッピング術の施行例になります。

    distal AICAの動脈瘤は非常に稀で,全脳動脈瘤中0.1%1)とされ,血管障害を扱う脳外科医でも生涯1例経験するか,というくらいです。破裂によるくも膜下出血で発症することが多く,動脈瘤のその解剖学的特徴から,くも膜下出血発症時に高率に聴力障害や顔面神経麻痺を合併します2)。また開頭動脈瘤ネッククリッピングの際,どうしてもⅦ・Ⅷの障害を免れない場合や,AICAから分岐する内耳動脈の血流低下をきたす場合があります。その際は術後に顔面麻痺や聴力障害といったⅦ・Ⅷの脳神経症状を認めます。つまりdistal AICA動脈瘤はその他の部位の動脈瘤に比べ高率にⅦ・Ⅷの脳神経症状を呈する脳動脈瘤と言えます。

    残り688文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top