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(3)糖尿病の食事療法─炭水化物を巡って [特集:糖質制限のプロス&コンス]

No.4779 (2015年11月28日発行) P.38

渥美義仁 (永寿総合病院糖尿病臨床研究センター長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-02

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  • 食事療法も,所得増大,農業・畜産業の国境を越えた拡大,フードビジネスの激化,嗜好変化の影響を受ける

    炭水化物を摂取エネルギーの50%にすることは,糖尿病患者と医療者に受け入れられはじめた

    患者の肥満度,食事環境,実現性を個別に考慮して指導する

    1. 変化を遂げる糖尿病の食事療法

    糖尿病の治療は,適正な食事と運動が基本で,必要により経口薬や注射薬を用いることは,薬物治療の選択肢が増えた現在においても変わらない。しかし,生活環境や食事環境によって肥満や疾病構造は変化し,栄養学も進歩するので,糖尿病の食事療法もその影響を受ける。近年,肥満と高血糖の対処法として,食事中の炭水化物の量と割合が注目され,“低炭水化物食”という言葉が広く用いられるようになった。同時に,糖尿病の食事療法においても,炭水化物の量と割合が世界的に見直され,わが国の糖尿病の食事療法にも変化をもたらした。
    本特集では,糖尿病の食事療法における炭水化物の量と割合について,2013年に発刊された『糖尿病治療のための食品交換表 第7版』(日本糖尿病学会編著)の編集委員として議論をリードした福井道明先生と,低炭水化物食を主唱する山田 悟先生にそれぞれ論じて頂いた。筆者は,食品交換表の編集委員ならびに担当理事として長年携わった立場と,山田先生の主催する“食・楽・健康協会”にも関わる立場から,この論点について異なる視点から概説する。

    2. 生活環境・食事環境の変化

    糖尿病患者や肥満者の世界的な増大は,生活環境と食事環境の変化によるところが大きい。生活環境としては,所得の増大,女性の就労増加,家事労働の電化・省力化,車の普及による運動量の減少,企業活動のグローバル化,生産や冷蔵の技術革新,などが考えられる。食事環境としては,食品の購買力上昇,食材の多様化と国境を越えた調達,食品加工産業の発展,女性の社会進出による炊事時間の短縮,内食から中食・外食への移行,外食産業の拡大,などが考えられる。これらの変化は,歴史的必然の面も多く,その結果として世界に栄養と健康状態の改善,身長など体格の改善,長寿など良い面をもたらしたことは間違いない。一方で,企業の売上志向や競争激化,摂取エネルギーと脂質の増加,砂糖など単純糖質の消費量増大,企業の寡占化やグローバル化による情報格差や情報操作,一次産業の国家間の競争激化と衰退,などの負の面があったことも確かである。最初に,このような面も低炭水化物食と関わっていることに触れておきたい。
    生活環境と食事環境の変化の流れは,国によって大きく異なる。わが国では,第二次世界大戦後の所得増大と輸出振興が食材輸入の圧力を生み,パン食が普及し,肉・乳製品の消費量は増え,外食産業やファストフード店が急拡大した。並行して,摂取エネルギーと脂質の割合も増加した。大人も子どもも仕事や塾通いなどが忙しくなるのに合わせて,調理の手間と時間が省けるインスタント食品が開発され普及した。同時に,自動販売機やコンビニエンスストアの増加に合わせて,糖入り清涼飲料水の消費量も急増した。食事の変化によりマグネシウムをはじめとするミネラルの摂取状況も変わり,糖代謝異常に影響した可能性も指摘されている。ちなみに,「国民衛生の動向」では,昭和30年代のわが国の平均摂取エネルギーは約2100kcalで,炭水化物78.0%(約410g),蛋白質13.3%,脂肪8.7%と,炭水化物の比率が高かった。食生活の変化により,炭水化物の比率が下がることは必然であった。

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