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【広尾病院移転問題】「知事が変わったとたん方針を変更した担当部局の説明責任が問われる」前病院長・佐々木氏がコメント

登録日: 2017-07-26

最終更新日: 2017-07-26

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小誌2016年11月05日号「都立広尾病院の移転問題を考える 地域医療構想の理念はどこに?」(http://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=5347)で取り上げた、都立広尾病院の移転問題が25日、現地建て替えで決着した。この問題は、広尾病院の前病院長の佐々木勝氏が、移転を決定した東京都の検討プロセスに異議を唱え、表面化したことで小池百合子知事が移転の白紙撤回を決断した経緯がある。そこで佐々木氏に今回の結論と一連の騒動を振り返り、コメントを寄せてもらった。広尾病院移転問題に関する詳報は、8月5日号「まとめてみました」で掲載予定。

佐々木勝氏コメント

2017年7月25日報道により、都立広尾病院移転の話が現地建替えで決着したことを知った。それらによれば、「第8回首都災害医療センター(仮称)基本構想検討委員会」の意見書として「委員長試案」を審議し、了承したとのことである。その意見書では現在のベッド数を縮小すること、敷地内の容積率を最大限利用すること、現地建替えでも十分に災害対応のスペースが確保できるほか施設・設備の強化が可能であり、また建替え中は周辺の拠点病院と協力し補完するなどで対応、長年この地で診療してきた経験と実践を地域貢献に生かせることもあり、現地建て替えを決めたという。結論から言えば良かったと言えるだろう。

しかし、このような提案は私が2015年6月に「みずほ総合研究所」と作成した「医療機能のあり方調査」「改築・改修のあり方調査」と基本的には同様の内容である。なぜ、かくも紆余曲折したのかが謎である。

当時の知事であった舛添要一氏は自らの著書(都知事失格:小学館;p.70-275)で、2015年10月22日に①病院長提案の現地建替え案(2020年完成:A案)、②ほかの現地建替え案(2段階整備で全面休止を避け2025年完成:B案)、③青山の移転改築案(C案)を比較検討し、交通アクセスや運営の影響、地元調整、将来性などから総合的にC案が優れているということになったと述べている。さらに自身が入院した経験から、騒音や振動に悩まされる現地建替えのA・B案は問題が多いという認識で、担当部局が「青山での新病院建設を進めていきたい」という提案を了承したとしている。

こうしたプロセスを得て、2016年度に移転用地取得のための予算が都議会を通過し、手続き的にも予算的にも移転が決まったにもかかわらず、「経過が不透明」「ブラックボックス」などと批判するマスコミの影響を受けた小池都知事が、白紙に戻してしまったとも述べている。

舛添氏は広尾病院移転の経緯について、2015年4月に国がこどもの城跡地の取得を打診してきたとしているが、私には2015年1月に当時の病院経営本部長がこどもの城取得の前提で青山移転の話をしているので食い違いが見られる。当時の病院経営本部長の発言は録音しており間違いはなく、2015年1月にはすでに青山移転の話が進んでいたと考えるほうが自然である。マスコミの批判は決して的外れなものではない。

さて、話を今回の結論に戻すが、「首都災害医療センター(仮称)基本構想検討委員会」の議事録からは、当初から舛添前知事が指摘するように担当部局が青山移転に賛同してきたという立場が読み取れる。なぜ今回唐突に現地建て替えが望ましい、とする委員長試案が出てきたのか、委員長試案のよりどころであるべきデータやその分析・検討は誰が行なったのか、また基本骨格の変わらない「医療機能のあり方調査」と「改築・改修のあり方調査」を土台にした現地建て替え案を舛添前知事の際には熟考の上選択しなかった担当部局がなぜ意見を変え青山移転をあきらめたのか、など十分な説明がされておらず、やはりプロセスが不透明な印象は拭えない。私は今回の一連の騒動に対して、現地建て替え・移転改築の是非はともかく、検討プロセスが不透明と言ってきたが、今回もやはり不透明である。舛添氏が述べているように手続き的にも予算的にも移転が決まっていたにもかかわらず、「経過が不透明」「ブラックボックス」などと批判するマスコミの影響を受けた小池都知事が白紙に戻してしまった理由を説明し、また、現地建替えに至った理由も必要であると思われる。

知事が変わったとたん、担当部局の方針が変わったように見えてしまうのは私だけであろうか。この不透明な部分を今話題の「忖度」ととられないよう、明確な説明責任が問われる。

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