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(1)がん治療と性腺毒性 [特集:若年性がん患者における妊孕性対策]

No.4748 (2015年04月25日発行) P.18

北島道夫 (長崎大学病院産科婦人科講師)

増﨑英明 (長崎大学病院病院長/同大学大学院医歯薬学総合研究科産科婦人科学分野教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-20

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  • 精巣や卵巣は放射線や抗がん剤に対する感受性が高く,がん治療後の性腺機能低下が問題となる

    性腺への傷害性は照射線量や抗がん剤の種類や投与量,女性では年齢により異なる

    不可逆的な性腺機能低下が予測される例には,がん治療開始前の妊孕性温存を考慮する

    1. がん治療の性腺に対する影響と妊孕性温存

    診断・治療法の進歩により,がんの治癒率は向上している。現在の悪性腫瘍の治療では放射線や複数の抗がん剤を併用した集学的治療が不可欠であるが,これらは男女の性腺である精巣あるいは卵巣の機能を低下させる可能性がある。そして,がん治療が性腺にもたらす影響は,内分泌機能低下による諸症状や不妊として,治療によりがんを克服した若年のがん生存者(cancer survivor)での治癒後の生活の質(QOL)に少なからず影響を与える。
    生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)の進歩により,がん治療による妊孕性の低下・消失に対して何らかの対策を講じることができるようになった。一方で,がん治療における薬剤や治療法の開発は日進月歩であり,新たな薬剤による多剤併用療法が続々と導入され,それらの性腺に対する影響は必ずしも明らかでない。個別化されたがん治療では,治療内容が性腺に及ぼす影響を正確に把握することが困難なこともある。顕微授精をはじめとしたARTの進歩は,がん治療後の男性不妊に対する治療を可能にしたが,思春期前男児の強力ながん治療における妊孕性温存はいまだ困難な場合が多い。
    また,晩婚化が顕著な昨今のわが国の状況では,特に女性においては子宮癌や乳癌などが増加する年齢層と挙児希望時期が重なるようになり,年齢の影響も考慮して,がん治療が性腺に与える影響を評価する必要がある。本稿では,放射線と抗がん剤による化学療法が男女の性腺である精巣および卵巣の構成細胞に及ぼす影響について概説する。

    2. 精巣に対するがん治療の影響

    1 精子形成過程と抗がん剤

    精巣は,がん治療での抗がん剤あるいは放射線に対する感受性がきわめて高い臓器である。精細管内で精原幹細胞(spermatogonial stem cell)の自己増殖・分化により,精原細胞(spermatogonia)から精母細胞(spermatocyte)が形成され,それらは減数分裂により4個の精子細胞(spermatid)に至る(spermatogenesis)。円形精子細胞から後期精子細胞に分化した精子細胞は,最終的に鞭毛を持つ精子へ分化する(spermiogenesis)。がん治療による細胞傷害に対する感受性は,精子の形成過程の各段階により異なる。活発に再生・増殖している精原細胞が最も強く影響を受け,精原細胞のプールが枯渇すると無精子症に至る。
    一方,精原幹細胞への傷害が強いがん治療では,長期的あるいは永久的な無精子症に陥る。精巣での活発な精子形成に補助的に関与する体細胞であるセルトリ細胞,ライディッヒ細胞,管周囲筋様細胞もがん治療により傷害されるが,それらの感受性は生殖細胞より低い。ライディッヒ細胞からのテストステロン産生は傷害されないことが多いが,抗がん剤の投与量や照射線量によりテストステロン産生が低下する場合があり,また,体細胞へのダメージは減少した精原細胞の増殖・分化の回復度に影響を与える。

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