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(22) 小児外科学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.106

田口智章 (九州大学大学院医学研究院小児外科学分野教授)

登録日: 2016-09-01

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  • ■日本の小児外科50年の発展と現状

    日本小児外科学会は1964年1月に設立され,2014年に50周年を迎えた。この50年間で小児外科は大きく進歩した。その中で特記すべきことは,以下の4点である。
    ①新生児外科疾患は,かつてほとんど救命できなかったが現在は救命するのが当たり前になった。
    ②胆道閉鎖症は致死的な病気であったが葛西手術により救命または延命できるようになり,さらに肝臓移植により治癒できる病気になった。
    ③小児がんは発見時に進行例が多く,切除不能例は救命困難であったが,術前化学療法と術後の化学療法や放射線療法など適切な集学的治療と手術の組み合わせにより,進行例でも長期生存できるようになり,特に肝芽腫や腎芽腫では切除または肝臓移植可能な状態までもっていけば治癒が期待できる。
    ④鏡視下手術の導入や従来の皺を利用した手術で腹部や胸部の傷がほとんど目立たない術式が標準術式になりつつある。
    また,小児外科疾患のうち難病で診断治療に難渋しているヒルシュスプルング病類縁疾患に関する厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)の研究班が発足し,全国調査をもとにその疾患の概要が明らかになってきた。
    本稿では,新生児外科疾患のうち進歩が著しい「先天性横隔膜ヘルニア」,難病として安倍総理が注目している「ヒルシュスプルング病類縁疾患」,さらに最近再生医療のソースとして期待されている「乳歯歯髄幹細胞」を用いた再生医療について述べる。

    TOPIC 1

    先天性横隔膜ヘルニア

    日本小児外科学会では発足以来,5年に1回新生児外科の全国調査を行ってきた。現在2013年のデータが集計されているが,まだ学会誌には掲載されていないので2008年までのデータを示す1)。この統計によると,1964年に比べると2008年では出生数は約2/3に減少し,人口は30%増で頭打ちになっているものの,新生児外科の症例数は5倍以上に増加し,1964年は662例であったが2008年は3517例となった。これはかつて新生児外科疾患が産科医や新生児科医に十分に認知されず治療の対象になっていなかったが,近年救命率が向上し手術すれば救命できintact survivalが可能な疾患として認識され,小児外科医までたどり着くようになったこと,さらに周産期母子医療センターの整備や出生前診断が普及し,産科医や新生児科医との連携の強化やチーム医療の構築なども大きな要因である。
    疾患別の死亡率の推移をみると,新生児外科の代表的な致死的疾患(臍帯ヘルニア,横隔膜ヘルニア,消化管穿孔,食道閉鎖)の死亡率は1964年では約60%であったが,2008年では15%程度に著明に低下した。これは,①出生前診断や疾患概念の浸透により早期診断可能になり肺合併症が少なくなったこと,②新生児科医との連携による呼吸・循環・栄養管理の進歩,③拡大鏡やヘッドランプや細いモノフィラメントの吸収糸の使用による愛護的操作など手術手技の向上,などが改善の要因と言える。
    新生児外科疾患の中でも「先天性横隔膜ヘルニア」は進歩が著しい。肺低形成+肺高血圧のため,出生前診断可能な重症例の生存率は30~50%程度であった。体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO),高頻度振動喚起(high frequency oscillation:HFO),一酸化窒素(NO),胎児麻酔の導入で少しずつ生存率が向上したが,60%程度で頭打ちであった。これを大きく変えたのはgentle ventilationと待機手術である2)。この方法により,合併奇形のない症例の生存率は90%まで向上した。これは画期的な進歩である。出生後の新生児治療に関しては,臼井班にて全国調査の結果をもとに3),診断と治療の標準化に向けてガイドライン作成が行われている4)
    先天性横隔膜ヘルニアの肺低形成に対して胎児治療が期待され米国のUniversity of California, San Francisco(UCSF)のHarrisonのグループを中心に動物実験を経て臨床例で実施されたが,新生児治療の成績の向上に伴い,胎児治療群と新生児治療群で生命予後に差がなく,むしろ胎児治療群のほうが早産が多いという結果になり胎児治療は中止された5)。しかし,ベルギーのDeprestを中心としたヨーロッパのグループはLHR<0.9の高度肺低形成群に限定して内視鏡的胎児気管閉塞術(fetal endoscopic tracheal occulusion:FETO)を行ったところ,胎児治療を行わなかった群の生存率が10%に対してFETO施行群では50%まで向上している6)。現在,わが国でもスタディグループに加わり,2014年から成育医療センターにてFETOがスタートした。そのためには正確な胎児診断による重症度の階層化が重要で,厚労省の班研究(左合班,臼井班)によるグループスタディを中心に進められている7)

    【文献】
    1) 日本小児外科学会学術・先進医療検討委員会:日小外会誌.2010;46(1):101-14.
    2) Masumoto K, et al:Pediatr Surg Int. 2009; 25(6):487-92.
    3) Nagata K, et al:J Pediatr Surg. 2013;48(4): 738-44.
    4) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 胎児・新生児肺低形成の診断・治療実態に関する調査研究平成24-25年度総合研究報告書(研究代表者:臼井規朗).
    5) Harrison MR, et al:N Engl J Med. 2003; 349(20):1916-24.
    6) Deprest J, et al: Ultrasound Obstet Gynecol. 2004;24(2):121-6.
    7) Usui N, et al:J Pediatr Surg. 2014;49(8):1191-6.

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