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(17) 老年病学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.86

楽木宏実 (大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学教授)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-10

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  • ■2025年問題に向けた老年医学の積極的展開

    2014年9月30日に,日本学術会議の臨床医学委員会老化分科会(委員長:国立長寿医療研究センター名誉総長・大島伸一)から「超高齢社会のフロントランナー日本:これからの日本の医学・医療のあり方」というタイトルで提言が出された。2025年には高齢化率が30%を超え,医療費は50兆円を超えるとされる状況で,個々人の健康という視点からだけではなく,人と社会のつながりという広い視野から高齢化する日本社会の将来ビジョンを提言したものである。
    老年症候群は老年病医学が標的とする最大の課題で,そのひとつであるサルコペニア・フレイルに対して2014年に日本老年医学会関係者が多面的な活動を展開した。5月にFrailtyの日本語訳として虚弱,脆弱などを統一して「フレイル」という用語を学会として示した。2月には日本サルコペニア・フレイル研究会(世話人代表:荒井秀典)が設立され,10月に開催された同研究会の第1回研究発表会には400人を超す参加者があった。
    老年医学会を中心とした老年医学研究者の活動として,高齢者医療に関する各種ガイドラインの整備がある。筆者が作成に関わった「高血圧治療ガイドライン2014」では,高齢者高血圧の記載において転倒・骨折を含め老年医学的視点を記載したり,認知症に関する章を新設したりしている。老年医学の啓発・推進への貢献が期待される。

    TOPIC 1

    高齢者を「治し支える医療」へのパラダイムシフトの提言

    わが国においては,いわゆる団塊の世代の加齢に伴って2025年頃まで75歳以上人口が急速に増え続け,その後も緩やかにではあるが増加を続ける。人数で2000万人を超え,2030年には20%を超えると推定されている。多死時代の到来であり,通院困難者を含めた生活機能障害者の急増,認知症患者の急増が予測されており,医療需要の質・量は共に大きく変化する。これに応えるべく,在宅医療の推進などが図られているが,臓器単位の疾病を解決することを主眼とする「治す医療」だけでなく,後期高齢者の場合,生活の質に優先順位を置いた「治し支える医療」を推進する必要がある。このようなパラダイムシフトの必要性とそのための対応について,学術会議の老化分科会から提言が出された1)
    最後の章にまとめられている提言の実施担当は医療専門職能団体,特に医師団体,および政策担当者である。今後10年にわたるわが国での最重要課題であり,本誌の読者に広く認識して頂くために以下の6項目を紹介する。
    (1)超高齢社会は75歳以上のみが増える未曾有の社会構造であり,医療需要は,ストレスにより要介護に陥りやすいフレイル,要介護,認知症を伴う医療に対応する「治し支える」医療にパラダイムを転換すべきである。
    (2)パラダイム転換には,病院機能の再編成と地域包括ケアにおける在宅医療の受け皿づくりを急ぐ必要がある。
    (3)人生の最終段階の医療とケアについて国民的議論および国民への啓発が必要である。
    (4)パラダイム転換を支える効率的医療,医学の教育,研究,人材育成のため,各医科大学に老年学,老年医学の講座を置くことが望まれる。
    (5)パラダイム転換を支える医療の連携,多職種研修,啓発のため,全国各ブロックに長寿医療センター(仮称)を置くべきである。
    (6)わが国が活力を維持し発展していくためには,少子化の是正策を講じるとともに高齢者自身の参画を促進する必要がある。また,高齢者医療の現場で活躍できる女性医師の育成が急務である。
    この提言と直接の関係はないが,2014年度診療報酬改定で「地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料」が新設された。①急性期病床からの患者の受け入れ,②介護施設や自宅・在宅等にいる患者の緊急時の受け入れ(二次救急病院の指定,在宅療養支援病院の届出などの要件),③在宅・生活復帰支援(在宅復帰率の設定)を柱とする病棟である。政策的な取り組みが10年後の「治し支える医療」を後押しすることを期待する。

    【文献】
    1) 日本学術会議臨床医学委員会老化分科会:提言「超高齢社会のフロントランナー日本:これからの日本の医学・医療のあり方」
    [http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t197-7.pdf]

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