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小児外科トランジション 【小児期から成人期にわたる長期的な治療で,多くの小児外科疾患で必要性が高まっている】

No.4817 (2016年08月20日発行) P.56

黒田達夫 (慶應義塾大学小児外科教授)

登録日: 2016-08-20

最終更新日: 2016-10-30

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近年,小児医療の領域で注目される言葉のひとつに「トランジション」がある。これは小児医療から成人医療への移行医療という意味で使われる。小児期に発症した疾患で,成人期まで長期に医療や医学的な経過観察を要する場合は少なくない。しかしながら,こうした症例は,これまでは小児の診療科と成人の診療科の狭間に落ち込んで,体系的に適切な治療を受けることが容易ではなかった。
「小児医療は,人間のライフサイクル全体を包括的かつシームレスに扱うべきものである」という考え方に基づいて「成育医療」という,世界にも類を見ない新たな医療概念がわが国で提唱され(文献1),2002年3月に国立成育医療研究センターが開院した。超高速高齢化社会の中で,成人化した小児疾患患者に対する医療サービスの新しい方向性が幕を開けたのである。
小児の生命維持器官に対する手術を扱う小児外科領域では,トランジションの問題は特に重要である。胆道閉鎖症に対する葛西手術は,わが国で開発され世界中で施行されているが,自己肝で成人年齢に達する症例は全体の3~4割程度と推定される。多くの症例が自己肝あるいは移植肝で成人期に達しており,就職,結婚,出産などの問題に直面している。疾患の特異性から,トランジション医療は小児外科医が担当している場合が多い。胆道閉鎖症のほか直腸肛門奇形,小児がんなど,多くの小児外科疾患でトランジション医療の確立が急がれている。

【文献】


1) 秋山 洋:日小外会誌. 2001;37(7):1030-4.

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