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ドクターヘリの現状と課題,今後の展望【全国的にドクターヘリを配備するためには費用対効果の検証が不可欠】

No.4812 (2016年07月16日発行) P.62

荻野隆光 (川崎医科大学救急医学教授)

登録日: 2016-07-16

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

ドクターヘリの現状と課題,今後の展望について,川崎医科大学・荻野隆光先生にご回答をお願いします。
【質問者】
鶴田良介:山口大学大学院医学系研究科救急・総合診療医学分野教授

【A】

1995年に発生した阪神・淡路大震災の超急性期に,被災地外への傷病者搬送に医療用ヘリコプターがほとんど使用されなかったために多くの防ぎえた外傷死があったという事実を教訓に,欧米のヘリコプターによる救急医療システムを日本に導入することが考えられました。そして1999年,当時の厚生省が行ったドクターヘリ試行的事業の成果をもとに,2001年4月から川崎医科大学附属病院で全国に先駆けてドクターヘリ事業が本格運航を開始しました。
ドクターヘリは2015年8月現在,38道府県で46機が運航しています。最近の出動件数は年間約2万件を超えています。既に,2014年4月末までに,総出動件数は10万件に達しました。その内容は,消防からの現場要請に対する出動が全体の約70%,病院間搬送のための出動が約20%,出動後キャンセルが約10%です。また,疾患別では,外傷が約43%と最も多く,ついで,脳血管障害が約14%,心・大血管疾患が約13%の順です。
ドクターヘリ事業は,発症から短時間で適切な応急処置のできる救急医を上記のような救急疾患の傷病者に接触させて,適切な治療を行うことを第一の目標にしています。そのため,消防本部によるドクターヘリ要請には,オーバートリアージを容認してきました。そして,キーワード方式による消防本部指令室から119番覚知直後のドクターヘリ要請を推奨することにより,ドクターヘリ出動件数が飛躍的に増大しました。
しかし,出動件数の著しい増加に伴って,基地病院によっては対応するドクターヘリ運航スタッフおよび医療スタッフへの負担が大きくなっています。そのような状況においても,人命に関わるようなドクターヘリ活動中の事故は絶対回避しなければなりません。そこで今後は,消防本部によるドクターヘリ要請基準の定期的な見直し,ドクターヘリ運航に関連するヒヤリハットの分析,定期的な安全運航に関連する講習会開催などにより,関係者の安全運航に対する意識づけを強化し,それを実践していく必要があります。
また,ドクターヘリ事業は国と地方自治体の補助金で運航されており,この補助金を維持するには,ドクターヘリの地域医療への貢献度を明確にする必要があります。そこで,2015年度より日本航空医療学会が中心となり,全国的なドクターヘリ・レジストリーが開始されました。これによって,ドクターヘリと救急車搬送された傷病者の予後その他を統計学的に比較検討することで,ドクターヘリの有効性が検証されると期待されます。
ドクターヘリ事業は補助金で運営されていると前述しましたが,現在ドクターヘリ基地病院には,それぞれ,年間約2.1億円の補助金が支給されており,全国のドクターヘリには年間で合計約100億円が国家予算から支出されています。今後,日本全国にあまねくドクターヘリによる救急医療を提供するためには,ドクターヘリが約70機必要になるとの試算がありますが,そのための国家予算を捻出するには,ドクターヘリの費用対効果の検証が不可欠と思われます。

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