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挙児希望症例の子宮筋腫の手術適応【筋層内筋腫および漿膜下筋腫の取り扱いに注意】

No.4808 (2016年06月18日発行) P.60

吉野 修 (富山大学医学部産科婦人科准教授)

登録日: 2016-06-18

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

挙児希望の女性に子宮筋腫がみつかった場合,現在はそれに伴う症状があまりなくても,不妊症の原因になることや妊娠中に問題となることを心配して手術を希望する患者がいる一方,手術による妊孕能低下や妊娠中の子宮破裂などのリスクを危惧する患者もいます。どのような症例に手術を勧めるほうがよいのか,またその考え方について,富山大学・吉野 修先生にご教示頂ければ幸いです。
【質問者】
甲賀かをり:東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座准教授

【A】

不妊症の観点からは,子宮筋腫の解剖学的位置,すなわち粘膜下,筋層内,漿膜下のいずれに存在するかにより,その取り扱いは異なります。粘膜下子宮筋腫は妊娠率低下の原因になることが多く,最近のcomprehensive reviewでも2cm以上の粘膜下筋腫は切除により妊娠率が向上するとされています(文献1) 。問題となるのは,筋層内筋腫および漿膜下筋腫に対する取り扱いです。MRI検査などで,子宮内腔の変形をきたすような子宮筋腫を手術の適応にすべきとの報告がありますが,一定の見解は得られていません。Samejimaら(文献2)やBullettiら(文献3)は,子宮筋腫以外に不妊因子がない症例に対して子宮筋腫を核出することで有意に妊娠率が高くなることを報告しています。
一般的に,子宮筋腫は過多月経や圧迫症状などの自覚症状があれば治療の対象になりますが,不妊症に関しては,ほかに不妊のリスク因子がなくてもなかなか妊娠に至らない場合,その打開策として子宮筋腫核出術を行うことに一定の意義があるということを,これらの報告は示唆しています。
ただし,子宮筋腫術後の合併症として,1%未満ですが妊娠中に子宮破裂を起こすリスクは存在します。手術を行うか否か,不妊期間および患者年齢なども含めて包括的な評価が必要です。
私たちは,子宮筋腫がどのような機序で不妊症を引き起こしているかについて検討を行っています。着床期,子宮内膜は蠕動様運動を低下させることで,胚の着床に適した環境をつくり出しています。また,動画MRIを用いて,着床期に子宮内膜における異常収縮を誘導するような子宮筋腫症例に対して子宮筋腫核出術が妊娠に向けて有効であると報告しています(文献4,5)。
したがって,筋層内筋腫があり不妊症も合併する場合は,動画MRIで異常収縮を判断した上で手術適応を決めるという選択肢もありますので,参考にして下さい。

【文献】


1) Brady PC, et al:Curr Opin Obstet Gynecol. 2013;25(3):255-9.
2) Samejima T, et al:Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2015;185:28-32.
3) Bulletti C, et al:J Am Assoc Gynecol Laparosc. 1999;6(4):441-5.
4) Yoshino O, et al:Hum Reprod. 2010;25(10):2475-9.
5) Yoshino O, et al:J Minim Invasive Gynecol. 2012;19(1):63-7.

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