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航空安全と1%ルール

No.4801 (2016年04月30日発行) P.58

五味秀穂 (航空医学研究センター専務理事・所長)

登録日: 2016-04-30

最終更新日: 2016-10-26

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航空安全の究極の目標は事故ゼロであるが,これは究極の理想で現実的に困難と言わざるをえない。では,現実的対応をどうするかと言えば,安全レベルを「事故を許容できるレベルまで削減する」に設定する。航空医学上の安全性を議論する際の指標として「1%ルール」が開発されてきた。
この考え方は1982年,英国航空心臓医学ワークショップで,航空機の事故率と循環器系疾患との関連について報告されたところから始まる。大型ジェット輸送機による死亡事故をもとに,まず事故率が計算(100万時間当たり0.2回)され,安全レベル目標値が1000万時間当たり1回に設定された。さらに,操縦不能をきたす疾病の発症確率を加味し,109時間に1回の発生を1人操縦の許容安全レベルとした。ここへ操縦士2人によるバックアップの確立(1/1000に低減)を加味し,2人操縦の場合,操縦士の操縦不能発生率が年間1%(1年約1万時間に0.01回=1%)以内であれば,航空医学上求められる操縦不能許容安全レベル以下に収められると考えられた(仮説の組み立ての詳細は文献(文献1)を参照)。
パイロットの疾病病態が,将来操縦不能をきたす疾患の発症にどう影響するか予測するのは非常に難しい。「危ないから」と感情的に慎重になり乗務させないことは,社会的にもマイナスである。「1%ルール」は疾病の発症率と比較し,乗務の可否を判断するものである。精神科疾患など発症率を数値化するのは難しいが,客観的医学的指標をもとに,さらに洗練されたものにしていきたい。

【文献】


1) Evans, ADB:加齢航空機乗組員の医学適性に関する調査報告書. 航空医学研究センター, 2003.

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