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【私の一曲】『ショパン:ノクターン 嬰ハ短調』

No.4762 (2015年08月01日発行) P.77

渡辺久子 (渡邊醫院/元慶応義塾大学病院小児科外来医長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-15

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  • 夜想曲第20番(1830年作曲)。多数のピアニストがこの曲を弾いている。今、筆者が一番よいと思い聴いているのがヤン・リシエツキ(1995年カナダ生まれのポーランド人)の演奏〈https://www.youtube.com/watch?v=FxibkvfXWIo〉。

    極限を生き延びる魂の、浄化されゆく調べ

    私の一曲、と言われて心に浮かぶのはショパンの遺作『ノクターン嬰ハ短調』である。ピアノを弾く時間はほとんどない。でも、たとえば外来から病棟に歩いていくとき、この旋律が私の体を駆け巡る。

    『ノクターン嬰ハ短調』は映画『戦場のピアニスト』の主題曲にもなった。第二次世界大戦中のポーランドで、ユダヤ人青年ピアニストが、ヒトラーの迫害を逃れて生き延びようとする。彼は戦場の廃墟で、とりつかれたように指を動かし、音なきノクターンを空に奏でる。『ノクターン嬰ハ短調』は極限を生きのびる魂の、浄化されゆく調べである。

    児童精神科の診療室にやってくるのは、理不尽な状況をひたむきに生きる過程で心の病に陥った子どもたちである。彼らは、どこか戦場のピアニストに似ている。

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