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超音波診断による検査を加えたPOCUSで変わる救急現場

No.4769 (2015年09月19日発行) P.57

三島史朗 (東京医科大学救急・災害医学教授)

登録日: 2015-09-19

最終更新日: 2016-10-26

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point of care(POC)(testing)は臨床現場即時検査とも呼ばれ,小型分析器や迅速キットを用いて,患者の傍らで行う診断手法である。救急・集中治療の現場においても昔から,血液ガス分析や簡易血糖測定はPOCであった。近年は,心疾患,急性中毒や感染症へと活用の幅を広げている。今日目覚ましいのが,超音波診断装置による検査法(POC ultrasonography:POCUS)であろう。
POCUSの特徴は,機器の性能向上や小型化に加え,その運用にある。診療の一分野として独立させるのではなく,診療バンドルに組み込むことで,その位置づけを与える。たとえばFAST(focused assessment with sonography for trauma)は,外傷患者の初療で,心嚢・胸腔・腹腔・後腹腔の液体貯留や血腫を手早く観察する。このとき重要なことは,出血の有無とその増加に焦点することで,実質臓器の質的診断にこだわらないことである。
そもそも検査は,見落とさないことが大事であった。そこをFASTはあえて「見ない」手順を構成し,外傷診療の最重要項目である「時間」を稼ぐ。バンドルが検査に見落としを要求するのである。循環不安定な患者に対して初療の現場で行いうることは,輸液・輸血と止血,ドレナージであろう。FASTは,その選択に必要な情報を,きわめて目的指向的に求める検査である。つまり,FASTは機器や手技の改変ではなく,考え方の改良なのである。さらに超音波は,水に強く空気に弱いが,今日の救急外来では気胸の診断にも利用する。虚脱率や全体像の描出は困難であるが,質的診断を行って治療の遅れを防ぐ。
このようにPOCUSは,救急の現場で働く者の意識と姿勢を変える手技であると言えよう。

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