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初期化

No.4713 (2014年08月23日発行) P.55

汐田剛史 (鳥取大学遺伝子医療学教授)

登録日: 2014-08-23

最終更新日: 2016-10-26

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初期化とは,分化し機能を持つ体細胞が,未分化の多能性幹細胞に戻る現象を指す。英語ではリプログラミングと呼ばれる。生物を構成する細胞のゲノムは生涯を通じて基本的にはほぼ一定であるが,必要に応じて遺伝子発現を変えている。この後天的遺伝子発現制御はエピジェネティクスと呼ばれ,DNAのメチル化,ヒストンのアセチル化により制御されている。このエピジェネティクスの再構成(リプログラミング)により初期化が誘導される。
世界で初めて初期化を行ったのは英国のジョン・ガードンである。彼は1962年にオタマジャクシの腸上皮細胞を除核したカエルの卵に移植し成功した。また,1997年に英国のイアン・ウィルムットは6歳の雌羊の乳腺細胞から核を取り出し,ほかの羊の除核未受精卵に移植した。これを第三の羊の子宮に移し,元の雌羊とまったく同じ遺伝子を持つクローン羊「ドリー」が誕生したと報告した。
2006年に京都大学の山中伸弥らは,マウス線維芽細胞に4遺伝子を導入し初期化させ,誘導性多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)の作製を報告し(文献1),翌年にヒトでの作製を報告した(文献2)。4遺伝子とは,Oct3/4,Klf4,Sox2,c-Mycの転写因子である。これら4遺伝子導入でエピジェネティクス修飾が変わり,核内の分子ネットワークが変化したと考えられる。この功績により,ジョン・ガードンと山中伸弥は,2012年のノーベル医学・生理学賞を受賞した。

【文献】


1) Takahashi K, et al:Cell. 2006;126(4):663-76.
2) Takahashi K, et al:Cell. 2007;131(5):861-72.

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