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母体血を用いた胎児染色体検査

No.4723 (2014年11月01日発行) P.58

澤井英明 (兵庫医科大学産科婦人科准教授)

登録日: 2014-11-01

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

最近,妊婦の母体血を用いた胎児染色体検査(いわゆる新型出生前診断)が話題になっています。高年齢の妊婦さんから「この検査を受けたほうがよいのか」と質問されることがあります。
しかし,妊婦さんや医療者でもこの検査の特徴(長所・短所)について十分に理解されていないことがあるようです。この検査によって,何がどの程度わかるのか,またこの検査の問題点について,兵庫医科大学・澤井英明先生のご教示をお願いします。
【質問者】
石井桂介:大阪府立母子保健総合医療センター産科部長

【A】

新型出生前診断は母体血胎児染色体検査,無侵襲的出生前検査(non-invasive prenatal testing:NIPT)とも呼ばれ,次世代シーケンサーなどの先端的な解析装置を用いて,妊婦血液中の胎児DNAを測定することにより,胎児が21,18,13トリソミーのいずれかに罹患している可能性が非常に高い(陽性と判定)か,非常に低い(陰性と判定)かを調べるスクリーニング検査です。従来の妊婦採血によるスクリーニング検査である母体血清マーカー検査(クアトロテストなど)と同じく非確定診断検査であり,実施した結果で診断が確定するわけではありません。
検査の精度(感度=検出率や特異度)が高く,陽性となった場合には,たとえば21トリソミー陽性となった場合には,本当に胎児が21トリソミーである可能性(陽性的中率)は35歳の妊婦で約85%,40歳で約95%,44歳では約99%となり,この数字に直面するとNIPTの結果だけで判断してしまう危惧があります。しかし,確実な結果を得るためには必ず絨毛検査や羊水検査などの侵襲的な確定診断検査を実施する必要があります。
反対に陰性となった場合は,これら3つの疾患に罹患している確率(陰性的中率)は年齢を問わず99.9%以上ないことになります。この数字は羊水検査による流産リスクよりもはるかに低値であり,流産リスクのある羊水検査を避けることができます。ただ,陰性であっても疾患が100%否定できるわけではないこと,対象となる3つの染色体の数的異常以外は検査対象ではないので,リスクは検査を受けていない方と同じであることなどが留意点です。
NIPTに限らず,出生前診断を受けるか受けないかは,個々のカップルの判断によります。関心を持つカップルには遺伝カウンセリングによって,最も適した判断を下せるように支援する必要があります。
問題は関心を持っているか持っていないかが不明な一般の妊婦さんにどこまで情報提供をするかです。まったく触れないと「教えてほしかった」と言われるかもしれませんし,あまり強調するとリスクをあおることになりかねず,難しいところです。
そこで当科では,妊娠した方全員にお渡しする文書として,エコー検査の説明書と妊娠初期~中期に実施する検査(一般の妊婦健診での検査)の説明書があるのですが,後者の中に出生前診断の検査についても簡潔に記載してあり,これにより周知を行い,関心のある方には遺伝カウンセリングの機会があることをお知らせするようにしています。

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